愛する人と一緒に眠るシチュエーションを想像すると、豪華なホテルでの広いダブルベッドよりも四畳半に敷いた薄っぺらなせんべい布団の方が魅力的に感じてしまう。
この場合、一緒に眠るというシチュエーションがポイントだ。
そう、薄っぺらい布団の方が僕の利用価値があるからだ。
君の凍える身体を僕が優しく温めてあげる。
安心してぐっすりと眠れるように、僕の愛と人肌で。
基本的に、男性は体温が高い生き物で女性は体温がやや低い生き物だ。
又三良もご多分漏れず、体温が高い生き物だ。
しかも、無駄に高い。
子ども並みに温かいのだ。
幼い頃から、コタツで寝たことも、湯たんぽを入れたことも、カイロを欲しがったこともなかった。いくら寒い冬でも、一切、必要なかった。
冬でも冷たい布団が好きなのだ。
あのひんやりとした感触が好きなのだ。
冷たい布団に入るたびに隅々まで温かくしてやろう、と無駄なチャレンジ精神を発揮して、布団を温めるのが好きなのだ。
そんなわけで、僕が付き合った彼女たちは僕と寝るのが大好きだった。大抵の場合、
「歯を磨いてるから、先に入ってて」
なんて言われて、お布団温め係を申しつけられる。
いつも彼女が寝る右サイドに寝転がって、うもももももー、と静かに喉の奥でうなる。具体的に頭の中でモーターを動かすイマジネーションを繰り広げると、何となく温かくなるような気がするからだ。
しばらくして、ハミガキを終えて、化粧水を叩いた後の彼女が「うう、さぶいさぶい」と身を縮ませてやってくる。
「はい、どうぞ」
と温めた場所を彼女に明け渡し、冷たい左サイドに移る。
「ありがと、わー、あったかい」
「そっか、良かった」
「あーん、でも、まだ寒いよう」
そんな姫のワガママを聞くのも、冬の幸せ、愛の温もり。
「はいはい、待っててね」
背中からギュッと抱き締めて、手も腕も太ももと足の先までぴったりと身体を寄せ合うように体温を分かち合う。
以前に、彼女の凍るような足をお腹で温めたことがあった。細く白く凍った足がお腹に着いた瞬間、思わず「死ぐ!」と叫びたくなったが、愛してると言葉だけでなく行動で指し示せ、が信条の僕としては、じっと堪えて彼女の足に温もりが伝わるのを待った。
温めながらも彼女の身体を触るのがまた楽しみなのだ。
寒くて縮こまった乳首は、世の中で五本の指にはいるほどチャーミングな固さだし、お尻のあの何とも言えない冷たさは触るだけで幸せに感じる。
ようやく彼女の身体が温まったところで、すでに彼女の寝息は規則的に聞こえて、おやすみなさいと耳元で囁くことになる。
冬に重宝、あったか又さん。
良いことばかりだと思えど、幸せな季節はそんなに長く続かない。
以前、ある女性シンガーソングライターとプロ野球選手が離婚した記事を読んだことがあった。離婚の理由は一言で言うと“価値観の違い”らしいが、一例として彼女がこんな事を言っていた。
「価値観が似ていると思ったが、結婚してみたら全然違った。わたしは寒がりだけど、彼は暑がり。部屋を20度ぐらいのカチンカチンにされて『私を殺すの?』と思った」
僕にも経験がある。夏は暑くてどうしても冷房の温度を下げたくなってしまうのだ。
そう、夏になってしまえば、
夏に敬遠、あつくる又さん。
になってしまうのだ。
手にするリモコンに、彼女の視線が突き刺さる。そこにはかつて体温を分け合った二人はいなかった。別々の部屋で過ごし、手を繋がなくなり、身体を重ねなくなり、冬の到来を待たずに恋は終わってしまう。
あたたかき 春の訪れ 笑顔なく 一人の夜に 寒さ恋しく
(了) |