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僕と君と明日のつづき
四畳半ダンディズム
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細川又三良
(ほそかわ・またさぶろう)
1972年愛知県生まれ、男性。

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062.『やりまん女の奇跡 episode III』
Date: 2004.10.03
 (※『episode II』のつづき)

  逃げるように彼女の部屋から出てから、三日後。
  クラブに行ったことすら忘れていた仕事全開モードの僕に、昼休みから戻った後、突然の来客者があった。
「おい、お前にお客さん」
「え、誰ですか?」
「ん、何か、ギャルっぽい女の子みたいだけど、彼女?」
「僕、彼女いないんですけど」
  打合せの予定もなく、彼女もいない僕は誰が訪問してきたのか、さっぱり見当がつかなかった。そっと隙間から覗くように応接室のドアを開けると、そこにいたのはクラブで会った時よりも目立つ格好をしていた彼女だった。
  イスに座って呑気にお茶でも飲んでいる。
  ドアを開けて目と目があった途端、キャーと黄色い声を上げて席を立ち、僕に抱きつこうとした。僕は両手を前に突き出して、
「ちょ、ちょっと待って」
と彼女の身体を離した。
  とにかく冷静に落ち着こう、と言い聞かせながら席に座る。
  すると、なぜか隣に座る彼女。こっちを向いてニヤニヤと下品な笑みを浮かべて手を振っている。その態度はまったく無邪気なもので悪意は感じられなかったけれど、僕は痛くもない腹を探られているような気分で警戒心が高まっていた。
「……えっと、この前は泊めてくれてどうもありがとう」
「あはっ、どういたしまして」
「で、本日などんなご用件でしょうか?」
  こんな相手にバカ丁寧な口調で対応しているのは自分でもおかしいとは思うけど、ここは会社であって応接室でなのだ。社会人として僕の対応は正しいものに違いない。
「あ、そうだ、これ、忘れ物だよ」
  そう言って彼女がバッグから出したのは彼女の部屋に置き忘れたCDだった。クラブの入口で配られていたインディーズレーベルのサンプルCDだったので、別に惜しくもなかったから置いてきたのだ。
「なに、この為だけに来たの?」
  僕が想像していたのは、妊娠しちゃったから責任取れとか、そんなヤバイことだった。大体、僕はエッチなんかしていないし、したとしても三日ぐらいですぐにわかるはずないよな、と改めて思う。
「ちょうどバイトの帰りだったの」
「へー、どこでバイトしてるの?」
「新宿。ここと近いよね、仕事を終わるのはいつぐらい?」
「あー、今日はどうなんだろ、まだわかんない」
  さり気ない会話の中でも、未だ警戒心が解ききれない自分がいる。とにかくちゃんと確認しようと口を開く。
「あのさ、あの日、僕は何もしてないよね?」
  彼女は目を丸くして、キョトンと僕を見つめた。
「ううん、ニューヨークとバスキアの絵の話をしてくれたよ」
「そうじゃなくて……あの、僕たち、やってないよね?」
  ようやく彼女は理解したように力強くうなずいて、
「あー、うん、してないしてない」
  そっか、良かった、と聞こえないように呟く。
「え、なに、私とやりたいの?」
  その言い方は今すぐここでもオッケーだよと言う風に聞こえた。
「いや、仕事中ですから結構です……君さ、いつもこんな感じ?」
「うん、そうだよ、私ってヤリマンだからさ」
  思わず手に持ったお茶をこぼす。他の社員に聞かれたらマズイとついパーティションの向こうが気になってしまう。
  普通、自分で自分のことヤリマンとか言うかなぁ? 一応、女の子でしょ、と思いながらも、赤裸々な発言に僕の警戒心は一気に吹き飛んでしまった。
「ヤリマンってさ、一体、何人からヤリマンなのかな?」
「えー、知らない、何人だろ?」
「ちなみに君は何人ぐらい?」
「えー、カヨ、百人は余裕で越えてるけど、わかんないかな」
  この時、僕は初めて彼女の名前を知った。
「百人斬りかぁ、すごいな。全部憶えてるもの?」
「んー、彼氏とかは憶えてるけど、あとはもう忘れちゃったよ」
 
  こんな突然の再会から、僕たちの関係は始まった。
  関係と言っても恋人ではなく、友達でもセックスは有りというセックスフレンドでもなく、僕が忌み嫌う男女の友情に近かった。
  正直に言えば、エッチをするチャンスはいくらでもあったけど、カヨと関係が発展することを望んでなかったし、性病が怖くてエッチをする気になれなかったのも事実だった。
  時々、カヨからメールや電話が来て、お互いに時間があったら会うぐらいの友人関係だった。
 
  そして、ある日、土曜日の朝、カヨから電話が入った。
  電話を取ると、ぜーぜーと荒く辛い息遣いを背景に、
「又さん、お願い、来て」
とカヨの悲痛な叫び声が聞こえてきた。
  特に予定の無かった僕は、とにかく携帯と財布を握り締めて、明大前にあるカヨが住む木造アパートに向かった。
  携帯で駅からアパートまでの道のりを聞いて、ようやくアパートに辿り着いて、カヨの部屋の玄関を開けた僕を待ち受けていたのは――全裸のカヨの姿だった。
 
  次の瞬間、やりまん女の股に奇跡が訪れる。
  僕はその場を立ちすくむことしかできなかった。
 
 (※『episode IV』につづく)
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