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僕と君と明日のつづき
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細川又三良
(ほそかわ・またさぶろう)
1972年愛知県生まれ、男性。

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055.『大阪ストレンジャー』
Date: 2006.10.15
 大阪弁が日本全国で認知されて一般的に使われ出したのはいつの頃だろうか。
  少し前に雑誌の記事で見かけて、そんなことを考えた。
  やすきよや漫才ブームを経て、吉本の東京進出、テレビの電波を経由して日本全国へと伝染したのだろう。
 
  かつて付き合っていた彼女は大阪が好きだと言った。
「人情味のある街が好き」
「ストレートで飾らない大阪弁は優しい」
「食べものも美味しい」
「ボケ、ツッコミは生まれながらに備わってる」
「あー、もう何で大阪人に生まれてこなかったと思うわ」
  あっそ、ふーん、だから、って感じ。
  だったら、さっさと東京を離れて大阪に住めばいいじゃないか。
  君が好きなのは、きっと、ストレンジャー・イン・オーサカ。観光客の大阪なんだよね。バカバカしい。
 
  数年前、僕の古くからの友人が二十五歳ぐらいになって突然、大阪弁を使い始めた。彼は生粋の愛知県人である。しかし、やはりネイティブに較べるとイントネーションがおかしくて、それが気になってまともな会話にならない。
「お願いだから止めてくれ」
  と言う。しかし彼は、
「え? これが普通やからしょうがないやん」
  と僕のお願いは無下に断った。
  いやいや、その発音もおかしいんだって! 人前に出ると恥ずかしいから、やめなさいって僕は何度も彼に注意した。
  そして、彼の大阪弁ブームはそれから二、三ヶ月で終わり元の言葉に戻った。今なお、その動機はわからないでいる。
  僕も時々、なんでやねん、と言うけれど、絶対、大阪のイントネーションには合わせない。
 
  関西出身の後輩が偉そうにモノを言う。
「いやいや、オーサカは違うんやて、他の地方とは全然ちゃうで、オーサカには世界に誇れる文化がある! トーキョーにはない」
  その独善的な言い方がムカついて、
「あー、うぜえんだよ、大阪の文化って何だよ、通天閣かよ、大阪城かよ、タイガースかよ、タコ焼きかよ、吉本かよ、お好み定食かよ、名古屋生まれの太閤様かよ、まさか、梅田の観覧車ってわけじゃないだろうな。あー、うざうざ、所詮、しみったれたプライドでしょ。東京をチラチラ横目で意識しちゃって、あー、お前、本当にウザイ」
と言い返した。
  大阪弁でポンポンと言葉が返ってくると思ったら、意外にシュンとしてしまった。
  少し悪いコトしたと思った。
  まあ、大阪以上に地元意識が強い我が故郷、愛知県人のみみっちいプライドよりもマシと言えばマシだと思うぞ。すまんな。
 
「もう、あの大阪人キライ」
と福岡は博多生まれの彼女はそう言った。
  その男は大阪出身で、壊れかけたFAXを彼女に五千円で売りつけようと、毎日電話してきたらしい。
「大阪人は商売人でお金に汚いよ。何でも売ろうとする」
  彼女はよほどその男に苦しめられていたらしい。僕もその男に会ったことがあったが、大阪人というよりも人間的にイヤなヤツだった。
「いや、大阪人も関係ないし、商売人も関係ないでしょ。大体、商売で言うならば『名古屋で成功すれば、全国どこでも成功する』って言うから、別に彼が商売上手なワケじゃないよ。強引でがめついだけだ」
「そう?」
「そんなにイヤなら、僕が断ってあげようか?」
「ホントに!」
「うん、五千円でどう?」
「え、お金取るの?」
「うん、僕は愛知県の出身だしな」
と笑う。
 
  出張先の大阪にて、人情味溢れると言われるこの街で道を尋ねようと女の子を呼び止めたら、プイッと外を向いて無視された。
  聞こえなかったのかな? と思いもう一度声を掛けると、
「うっさいねん」
と言って足早に立ち去っていった。
  逆に人情味が薄いと言われる東京で、僕は人に道を聞いたことがあるが、その誰もがちゃんと対応してくれた。
  つまり、ここで言いたいことは、尋ねた人が悪かったってこと、そうだよね?
 
  ある居酒屋でお酒を飲んでいた。
  座敷席から学生のサークルだと思われる連中が騒いでいる。中心となって騒いでるのは大阪弁の男。
  おもろいギャグで場を盛り上げてるって……いや、そのネタ、テレビで観たことある、松ちゃんだっけ。
  どことなく、ボケのセンスもありきたりでつまんない。
  小学生のクラスの人気者程度の頭の悪さ。
  何となく面白そうに聞こえるのは大阪弁に頼ってるだけだと本人気付かないのかなぁ、周りに笑う奴らも面白くなかったら笑うなよ。
  大体、ボケとツッコミだけが笑いだと思うのは疑問だ。名古屋地区でも『吉本新喜劇』は土曜の昼に放映されていたけど、僕はちっとも見なかった。
  理由は一つ。面白くなかったから。同じようなことの繰り返しで、一回見れば充分だった。
 
「もー、又さんいややわ。バカにせんといてー」
  出張先のホテルで夜景を見ながら僕が口ずさんだのは、
「滲む町の灯を 二人見ていた 桟橋に止めた 車にもたれて♪ 泣いたらあかん 泣いたら〜 切なくなるだけ〜♪」
と上田正樹の『悲しい色やね』。
「えー、これって大阪の人は今でも必ず歌うんでしょ?」
と煽ってみる。
「やめてやー」
「で、お好み定食、毎日食べてるんでしょ? 信じられない、お米と小麦粉なんて炭水化物ばっかりじゃん」
「あー、もー、毎日なんて食べてないよ」
「けっ、ダメだな、君は大阪人失格だ!」
  そう叱って彼女を抱き寄せてキスをする。
  目がトロンとした彼女に、一言。
「青のり、付いてるよ」
  彼女のヒジ打ちは、未だに僕のハートに痛みを残している。
 
「そんなん、オレ、オモロないもん……」
と大阪人の彼は呟いた。
  みんなから「大阪人だから、何か面白いこと言ってよ」とプレッシャーを掛けられて、どうしようもなく呟いた一言。
  確かに彼は真面目な人。
  そりゃそーだよな。
  いくら小さい頃から吉本を見ていたって、全ての大阪人が漫才が出来るわけがない。
  テレビドラマでも三枚目を演じるのは陽気で真っ直ぐな大阪人。いつ誰がこんなイメージを植え付けたんだろう。
  大阪人だからって、そんな色眼鏡で見るのは止めないとね。
 
  つまり、何が言いたいわけ?
  そんなに大阪が嫌いなの?
  大阪のこと何も知らないくせに。
 
  なんて声が聞こえてきそう。
  違う違う、それに僕は昔、高槻市に住んでたことがあるしね、うん、すごく住み心地は良かったよ。
 
  僕が嫌いなのは、増幅されたイメージのオーサカ。
  ことさら大阪を自慢する人間がウザイだけ。
  ことさら大阪を崇める人間がキライなだけ。
 
  普通に生きている等身大の街としての大阪が好き。
  一言、それを言いたかっただけさ。

 (了)
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