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author
細川又三良 (ほそかわ・またさぶろう)
1972年愛知県生まれ、男性。
art direction & design
Instant Design Works
photograph
matasaburo EXHIBITION |
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(2002.05.20〜現在)
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| 053.『エマージェンシー・ハイ』 |
| Date: 2002.09.16 |
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例えば、飛行機に乗ったとする。
その時に、僕は何を思うか、何を願うか。
飛行機が堕ちずに無事に目的地にたどり着くこと――と同時に、それと同じ重さで思うことがある。
窓の外から機内に視線を移して思うのは、テロリストによるハイジャックと墜落の危機。
そう、僕が求めているのは、今、そこにある危機。
僕はそれを“エマージェンシー・ハイ”と勝手に呼んでいる。
又三良という人間を客観的に分析すると、人から頼まれごとをするのも人に何かを頼むのも嫌いで、リーダーのような責任のある仕事からは逃げるし、出来れば、一人で気ままに行動をしたがるタイプなのである。
だから、キャンプなど集団行動ではあまり使い物にならない。
ボーイスカウトを経験した奴らが火起しやテント設営で脚光を浴びる中、僕一人、プラプラ歩いては周りを冷やかしているような、どうしようもないヤツである。
皆が何も言わないことを良いことに、好き勝手し放題。
そんな僕の天敵は、委員長タイプの女の子だ。
「又さん、いい加減手伝いなさいよ」
その一言で僕はしぶしぶ作業を手伝うハメになる。
そんな僕が誰よりも迅速に行動する時がある。
それはトラブルの時だ。
キャンプの場合、突発的な事故や怪我がそれに当たるのかも知れない。
「あああ、どうしよ、どうしよ」と周りの混乱を尻目に、自分の心がどんどんと冷静にクールになっていくのがわかる。
「とりあえず落ち着いて考えるんだ」と頭を高速回転して考えつつ、体はすぐに行動に移せるように身構える。
実際にトラブルに遭った人には悪いが実は少し楽しんでいる。
そう、ゾクゾクするような緊張感。周りがパニックに陥っているなか、一人だけ自分の心に問い掛ける。
今、どういう状況でお前は何をすべきなのか――。
永遠とも思える退屈な日常からふと離れた一瞬の緊張は、僕にとっては禁断の果実の甘さ。
そんなわけで僕は時々、救急車に乗ることがある。
その日、出張先のある街で僕は人通りの少ない裏通りを歩いていた。ちょうど、交差点を通り過ぎた後、激しいブレーキ音のあとに鈍い衝突音が聞こえた。
振り返ると軽自動車の前に自転車が転がっている。僕は荷物を持ったまま、走って怪我人の元に急いだ。
怪我人は男子中高生、自転車は二メートルぐらい離れた所に転がり、フレームが歪な形で曲がっている。彼は空中に放り出されたようで路上に横たわっていた。
「大丈夫か? 大丈夫か?」
問い掛けるが返事はない。よって、意識があるのかどうかも分からない。とりあえず、慎重に頭部を持ち上げて道の真ん中から端に移し、仰向けに寝かせる。やがて、ピクピクと全身が痙攣していく。
「これはマズいな」
すぐに立ち上がって住所の書いてある信号機や電信柱を探しながら携帯で119番にダイヤルする。
「もしもし、救急車をお願いします。交通事故、ええ、軽自動車と自転車の衝突事故です。場所は○○町○丁目の○○交差点、はい、怪我人は中高生、男子、目立った外傷なし出血もありませんが意識不明だと思われます。私の名前は又三良と申します。私の携帯の番号を言います090-XXXX-XXXXです。ええ、はい、ここにいます」
携帯を耳に当てたまま、信号無視をした軽自動車に駆け寄って、その前に立つ。
運転者は五十代ぐらいの中年女性。衝突して道の真ん中に車を停めている。エンジンは付けっぱなしのまま、極度に怯えた表情でハンドルをギュッと握りしめている。
この場に僕が居合わせなければ、逃げてしまいそうな勢いだった。
とりあえず、車に近づいて指で道路の隅に移動させることを指示する。同時に車の色や車種、ナンバーなどを意識して憶える。
一旦、電話を切り、今度は警察へ。
同じように状況を伝えてパトカーが来るのを待つ。
ようやく中年女性が車から降りてきて、オロオロと僕に向かって歩いてくる。
「あ、あの、急いでいたんです……主人が待ってるんです……あのその」
中年女性は思い付いたままを口にした。
「それは警察にでも言ってください。とりあえず、免許証や車検証の準備と――その前にご主人に連絡した方がいいんじゃないですか」
勤めて落ち着くように助言して彼女が電話をしている間に、中高生の元に戻って身元が確認出来るものを探して、生徒手帳から彼の自宅に電話をする。電話を出たのは彼の母親だった。
要点をかいつまんで説明し、今、救急車が向かっているから連絡先は後で伝えると言って電話を切る。
先にパトカーが到着して短く事情を話し、続いて到着した救急車を迎える。
あなたが電話を掛けた人? と聞かれて「そうです、と答え、意識不明、外傷なし、出血なし、呼吸正常」と、まるで海外ドラマ『ER』みたいに連呼して救急隊を案内する。
そして、そのまま救急車に乗って、怪我人の手を握って「もう、大丈夫だから」と励ましたりするのだ。
気分はまさしく『ER』に登場する医者のジョン・カーターだ。
エマージェンシー・ハイの面目躍如――。
小説や映画に感化されすぎ、と思う人もいるだろう。
別にご都合主義のヒーローになりたいわけではない。僕は常に小説になるべく物語を探していて、どんな場所でも危機的状況を想像するうちにそれがシミュレーションとなって、いざと言う時、それを試すような形でエマージェンシー・ハイとなるに違いない。
今日もまた、ふと電車の中で考える。何かトラブルがあり車両が緊急停車したとする。車内の照明が消えてパニックになる車内――僕は何を考え、どう判断し、どんな行動をして、自分を、そして周りの人間の危機を救えるのだろうか、と。
(了) |
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