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僕と君と明日のつづき
四畳半ダンディズム
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細川又三良
(ほそかわ・またさぶろう)
1972年愛知県生まれ、男性。

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052.『エビを喰う家族』
Date: 2006.10.10
 ずっと前、当時付き合っていた彼女と回転寿司を食べに行った時、ベルトコンベアーを挟んでテーブル席に座る家族が気になった。
  中年男性と中年女性、髪にスカーフのような布を巻いた老婆に小学生ぐらいの男の子と女の子、合計で五人の家族だった。週末の回転寿司によく見かける家族のように思えて、周りの家族と決定的に違うのは、彼らが話す言葉と身に付ける衣装と肌の色だった。
  そう、その家族は外国人だった。
  浅黒い肌の色から、どことなく中近東かインド周辺の人たちに思えた。
  寿司をはじめとした日本食は海外でもかなりメジャーになりつつあるから、外国人が寿司を食べる光景は別に珍しいともなんとも思わない。
  しかし、驚いたのは彼らが食したネタにあった。
 
  本当にその光景は異様だった。
  それに気付いたのは僕だった。最初はちょっとした興味本位だったような気がする。中近東やインド周辺の人たち(私の予想だが)がどんな寿司ネタを好むのか、ふと観察したくなったのである。
  皿を取るのは、外国人も子どもの役目らしく、その家族も幼い男の子が張り切って皿を取っていた。
  まず、エビ。
(最初にエビね、ふうむ)
  次に、エビ。
(妹の分を取ってやってるのかな)
  また、エビ。
(優しい子だ、全員の分を取ってるんだ)
  再び、エビ。
(エビ好きの家族なんだね)
  まだ、エビ。
(え、全員に行き渡ったのに)
  でも、エビ。
(え、誰も文句言わないの?)
    ↓
  やれ、エビ。
(うう、何なんだ、これは)
    ↓
  それ、エビ。
(もしかして、何か深刻な事情でもあるのではないだろうか――)
 
  さっきから新鮮なネギトロを狙っている彼女の肩を突いて、「エビ、エビ」と呟く。
「え、なに? エビぐらい自分で取りなよー」
  彼女はまだ気付いていない。僕は小声で囁くように彼女に伝える。
「……違うって、あそこの家族見てよ」
  さり気なく、あごの先で前にいる家族を指す。なにげに男の子を観察する彼女。一皿、もう一皿、と回るうちに、あっと驚いて僕の顔を見つめる。
(エビばっかり、だね!)
(でしょ、本当に最初からエビだけなの!)
  さらに、そこでインターフォンの声がこちらにも聞こえてきた。たどたどしい日本語で、しかし、しっかりとした発音だった。
「エビ、オネガイシマス、タクサン、エビ」
 
  豊富なネタを載せたお寿司が回っているのにもかかわらず、その家族はおやじもエビ、おかんもエビ、おばあちゃんもエビ、ガキもエビ、お嬢もエビ。
  ひたすら、エビなのだ。
  甘エビではなく、茹でたエビを載せた寿司を家族全員で食べ続けていた。
 
  その家族はひたすらエビを食べ尽くすと、すぐに席を立ってレジへと向かった。
  じっと彼らを見つめる視線に男の子と女の子が気付き、両親に何やら報告するように耳打ちしていたが、とっさにデザートを食べていた彼女がにこやかに手を振って、事なきを得て彼らは店を出て行った。
「もう、あんまりジロジロ見たら悪いよ」
「わかってるけど、あまりにもすごかったから」
「きっと、みんなエビが好きなんだよ」
「それだけかな?」
「うん、それだけだよ」
「いや、あるんじゃないの? 豚みたいに宗教上口にしちゃいけないとか、生の魚は食べられないとか……」
「うーん、どうなんだろ」
  それから彼女と話し合ってみたものの、結論は出なかった。そして、今なお、時々考えるものの結論が出ていない。
  これを読んだ人でその家族がエビを食べ続けた理由について知っている人がいたら、是非、教えて欲しい。
 
  本当にその一家はエビばかりを食べていたのだ。

 (了)
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