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author
細川又三良 (ほそかわ・またさぶろう)
1972年愛知県生まれ、男性。
art direction & design
Instant Design Works
photograph
matasaburo EXHIBITION |
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(2002.05.20〜現在)
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| 049.『きっと、それは愛と一言で言えるものじゃなくて』 |
| Date: 2006.10.04 |
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素早く膣からペニスを抜いて、彼女の顔にまたがって、まだしっかりとメイクが残った顔に精液をぶちまける。三日前に会う約束をして、それから一人エッチもせずに溜めていたから、相当、濃くて粘っこいはずだ。
彼女は目をつぶってその行為を受け入れる。
白濁した液が形のいい鼻から頬を伝わって落ちていく。
当然、すぐにティッシュですぐに拭うかと思ったが、彼女は顔を拭こうとはせずに、じっと動かないままだった。
優しくするつもりなんてなかったのに、つい、手が勝手に動いてティッシュを二、三枚取り、肌を擦らないように、ポンポンと押さえるようにして精液を紙に吸収させる。
「……はい、あとは自分で拭いて」
「ありがとう、優しいね」
「いいえ」
この場合の「いいえ」は「どういたしまして」に続くのではなくて、本当に否定の意味での「いいえ」である。実際に優しくなんかないだろう。本当に優しい男ならば、いくら約束したからって、顔に射精なんてしないでしょ、と思う。
ふう、と一つ大きく息を吐いて、ティッシュで顔を拭く彼女。
「どう、生まれて初めての顔面シャワーの気分は?」
「顔面シャワーって言うんだ」
「正式名称は知らない、顔面発射だから顔射なのかもしれないね」
「いつもしてるの?」
「しないよ、こんなこと」
そっか、と髪をかき上げる、前髪にも少し掛かったみたいで、かき上げた手を鼻に近づけて、くんくんと匂いを嗅いでいる。
「ご感想は?」
「んー、びっくり、あと、今日は量が多いなって」
「それだけ? 屈辱的だとか、くだらないとか、逆に嬉しいとか、無いの?」
「んー、わかんないかも……又さんは?」
「そうねえ、正直に言ってもいい?」
うん、とうなずきながらティッシュで目元を拭いて、パチパチと瞬きを繰り返している。
「最初って言うか、元々、冗談だったんだよ、顔に出させてって言ったのは」
「そうなの?」
「うん、いつもの嫌がらせ」
「又さん意地悪だもんね」
「そのつもりだったのに、イク時に訊いたじゃん、本当に顔に出していいかって?」
「いいよ、って言ったから?」
「それもあるけど、あの返事がイエスでもノーでも強引に顔に出しちゃえって思ったら、背中がゾクゾクして、すぐにイキそうになっちゃって、急いで抜いて思いっ切り顔に出しちゃった」
「なんか、顔がカピカピする」
どことなく引きつったような笑顔に見える。
「顔洗ってきなよ、ついでにメイクも落としてきな」
彼女はすぐに立ち上がってバッグの中からポーチを取って浴室に向かった。一人取り残された僕は、顔射について考えようとしたが、上手く考えたまとまらなかった。
待つこと十五分ほど。たかが顔を洗って、化粧水を付けるだけなのに、どうしてこんなにも時間が掛かるんだろう。さっきから、僕はテレビのリモコンを持ったまま、電源を点けたり消したりしている。
「おーい、早くこっちに来いよ、千晶」
ベッドを叩きながら叫ぶ僕に、
「ちょっと待っててー」
と彼女が答える。
すぐ手が届くところに彼女がいれば、何をしていても大して気にならないのに、少しでも姿が見えなくなると、心中穏やかでない自分がいる。
まるで赤ん坊のようだ、と自分でも思う。母親の愛情に飢えた子ども――三人兄弟の真ん中は自立と引き替えにいつも満たされない何かを抱えてる。
ガチャッと浴室のドアが開いて、ようやく姿を見せる彼女。メイクで完全武装した彼女もとても素敵だけど、スッピンのさっぱりとした彼女の素顔はそれ以上に魅力的に見える。
「又さんって、すっごいせっかちだよね」
ガチャガチャとメイク用品を手で探しながら、不満そうに言う彼女。
「いや、せっかちじゃなくて、自分勝手なんだよ、たぶん」
「わかってるじゃん」
「わかってるじゃんって言うんだったら、さっさと早く隣に来てよ」
くるり振り向いて、僕を睨み付ける細い眼と小さく膨らんだ頬が、もう、わがままだなぁ、とそんなセリフを代弁している。
恋をするとあばたもえくぼ、怒っている顔さえ愛おしくなる。
ね、早く、僕の隣に来て、とベッドを叩く。しょうがないなぁ、と彼女はようやく腰を上げてこっちにやって来る、すかさず腰に手を回してキスをする。このキスはこっちに来てくれてありがとうの軽いキス。
「千晶って、両親の他に、お兄さんか、お姉さんいるでしょ?」
「あ、うん。どっちもいる」
「三人兄妹?」
「そうそう、上がお兄さんで真ん中がお姉さんで、あと私」
「親にも兄妹にも愛情たっぷりに甘やかされて育ったんだね」
「そうでもないよ」
「お兄さんもお姉さんも千晶とは結構、歳、離れてるでしょ?」
「うん」
「やっぱりな。千晶って驚くほど邪気がないんだよね。僕の言うことウソでも全部信じちゃうし、人に何かを頼むとか甘えるの上手だしね、自分で動かなくても周りの方が先に動いてくれるでしょ?」
「ん、どうなんだろ」
「だから、汚したくなっちゃうんだよ」
「えっ」
「何だろうね、君のお父さんが大切に守ってきた真っ白の部分とか、歴代の彼氏が触れられなかった所を、僕が汚したいって思っちゃうんだよね。二時間かけて作った砂の城を十秒で破壊する快感って言えばわかるかな」
「むー」
「新雪が積もった庭を見ると真っ先に足跡をつけたいって言うか、道を歩いてる時、後ろからスカートめくりたくなるって言うか」
「あれ、恥ずかしいからホントやめてよね」
「うん、もうやらないよ」
「……そう言って、またするんだもんなぁ」
何も答えずに、彼女の気持ちいい太ももに顔を埋める。両手を腰に回していっぱいに力を入れて抱き締める。彼女はゆっくりと僕の頭をちょうど耳に辺りを優しく撫でている。
「そう言えば、どうしてすぐに拭かなかったの? 顔」
「えー、どうしていいかわかんなかったから。別に汚されたとか思わなかったよ。だって、あれって大切な人の遺伝子情報がいっぱいあるんだもん。全部、手に取って、舐めた方がいいのかな、なんて考えてた」
遺伝子情報って、間違っていないけど変な言い方だよな、と笑う。
「顔じゃなくて、中に出して欲しかった?」
「うん」
「えっ、冗談でしょ、中に出したら赤ちゃん出来ちゃうよ」
「してる時は、顔でも中でも好きな所で出して欲しいって思ってた」
「中で出すならちゃんと避妊するよ」
「今日はいいよ、もうすぐ生理だから」
顔を上に向けた僕に、彼女は赤ん坊にお乳を与えるように乳房を出して、僕の口に当てた。乳首を強く吸うと彼女は身を固く縮ませて身体を震わせた。
二回目のセックスが終わって、二人裸のままシーツにくるまって浅い眠りにまどろんでいる。
僕は短い夢を見ていた。
それは今まで見たことのない夢で、僕は彼女の子供になっていた。まだ一歳児ぐらいで視界は限りなく床に近かった。手足の感覚や聴覚などはなく、ただ、視覚と思考だけが独立して存在しているようだった。
まず考えたのは父親は誰なんだろうと言う疑問だった。当然、僕が赤ん坊ならば、父親は僕では無いはずだ。しかし、父親の姿はどこにも見られなかった。たぶん、きっと、カイシャにでも出掛けているのだろう。
母である彼女は部屋の向こうでイスに掛けて電話をしていた。出産を経験したのに彼女の身体には何の変化もなかった。太ってもいないし痩せてもいない――ただ、顔の輪郭が随分と優しくなったように見えた。
大切な子供をほったらかしにして、彼女は話に夢中になっていた。
ふと、目覚めると、彼女は隣にはいなかった。
窓際のテーブルセットのイスに座って、誰かと電話をしているようだった。そのまま寝たふりをして、彼女が誰と話しているか探ろうとする。
屈託のない口調から親しい人物、語尾から相手は女性とも男性とも区別が付かなかった。それから程なくして通話は終わった。そのタイミングで声を掛ける。
「誰から?」
「起きてたの?」
「今、起きた」
「ごめんね、起こしちゃった?」
「ううん、電話、誰なの?」
「ん、友達」
「そっか」と呟くと、またすぐに強い眠気が襲ってきて徐々に意識が薄れていった。
(了) |
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