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僕と君と明日のつづき
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細川又三良
(ほそかわ・またさぶろう)
1972年愛知県生まれ、男性。

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047.『チョップスティック・ラヴ』
Date: 2002.06.01
 失礼なのは承知で、僕は時々、彼女が食事をするところをじっと眺めてしまう。
  別に小姑のように、この娘の躾はちゃんとしているかどうかを観察したいわけではない。
  ただ、単純に――さり気なく開いた胸元に目が行くように、スリットから覗く白い脚に目が奪われると同じように、彼女の箸の使い方に惚れてしまうのである。
 
  どうやって表現したらいいのか難しい。
  特別に特徴があるわけではないのだ。普通に左手にお茶碗を持って右手に箸を持って、ただご飯を食べるだけ。
  高級料理を品良く食べている姿が良いわけではなく、むしろ地味な社員食堂でランチの定食を食べている姿の方が僕の目には美しく映えるのかもしれない。
  そう、その仕草――次に何を食べよっかな、なんて、箸の先を合わせて、そっと唇に当てる姿が僕の心の奥底にある何かをつかんで離さない。
 
  それは箸だけではない。
  カトラリーの扱い方、つまり、ナイフとフォークの使い方もまた見とれてしまうことがある。
  印象深いのがステーキの食べ方。
  ミディアムに焼いたジューシーなお肉にナイフを入れて、そこまで切るか? と思うほどに細切れにして、一センチ程度に切り取られた欠片を口に入れて「やわらか〜い」と言うシーンは誰でも一度は見たことがあるに違いない。
  弁当箱の先が丸っこいプラスティックのスプーンやフォークも良い雰囲気を醸し出す。
  ぷすっ、と音が聞こえて来そうな感じで、フォークを唐揚げかプチトマトに突き刺して、あとはパクッとフォークごと口に入れる感じ。
  デザートのスプーンの使い方もまた一見の価値があるだろう。特にプリンやババロア系だとその真価がさらに発揮される。
 
  女性は男性に較べて、そう言った食器の使い方が上手ではないだろうか。
  それは女性の方が他人の目を強く意識しているからだと思う。思春期の頃からか他人を意識した時点で食べ方は変わってくるに違いない。
  対する、男性の場合、食事はまず食欲を満たすものであり、どうしてもガツガツと食べることに夢中になって、それが大人になっても変わらないため、女性に較べて下手なのではないだろうか。
 
  食事の仕方が汚いから、とそんな理由で別れる男はいないけど、そういう理由で別れる女は少なからず存在する。
  たかが、メシの喰い方ぐらいでくだらないよな、と思う男がいるかも知れないが、意外に、女性の視点は正しいのかも知れない。
 
  食事は自分の食欲を満たすこと、ではあるが、それは一人の食事であって、二人以上の食事の場合、お互いの食欲を満たすことももちろんだが、食事を楽しむことも重要になるからだ。
  マナーの基本は人の嫌がることをしないこと。
  食事中にゲップをするのは常識外れだし、ペロペロとフォークを舐めたりするのもみっともないし、くちゃくちゃ音を立てるのも気持ち悪い、肘をついてダラダラと食べるのは、その姿勢からして、なんとなく一緒に食事をしていて退屈だと言っているように感じてもおかしくない。
 
  なるほどね。
  きっと、食べ方が汚い人は付き合っている時も、自分勝手に振る舞っているに違いない。ただ、腹を満たすだけの会話のない食事、料理は女が作るモノだと言う押しつけ――そして、自分だけ気持ち良ければいいと一方的なオナニーのようなセックス。
 
  そういう自分勝手な彼氏さんが好きな女の子もいるだろうけど、やはり、大半の女性はそんな相手のことを気にしない男が大嫌いなのだ。
 
  何も映画やテレビドラマで交わされるような肩肘を張るような食事をすることもないし、小粋な会話を繰り広げる必要はない。相手や周りの客を不愉快にさせない程度のテーブルマナーで充分だし、料理を食べてる彼女が笑顔ならば、
「これ、美味しいよね」
と言えばいいのだ。
「うん、美味しいね」と共感を得れば、それだけで彼女は喜ぶし、食事が楽しくなっていく。
 
  チョップスティック・ラブ。
  だから、僕は時々、箸を上手く使う女の子に恋をする。
 
  濡れた唇に触れる食物のイメージは、もう一つ隠された意味があって、箸の使い方が上手なコは――と言うけれど、まあ、ここでは触れないでおく。

 (了)
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