|
|
|
|
|
|
|
connection |
|
 |
お気に入りに入れる |
|
|
|
|  |
メールを書いてみる |
|
|
|
|  |
メッセで話してみる |
|
|
|
|
author
細川又三良 (ほそかわ・またさぶろう)
1972年愛知県生まれ、男性。
art direction & design
Instant Design Works
photograph
matasaburo EXHIBITION |
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
caution
※当ウェブサイトはリンクフリーです。リンク等に関して 許可申請やリンク報告などの必要はありません。
※収録された小説作品はすべてオリジナルです。エッセイは一部事実を元に構成されたフィクションです。
※文章や写真の無断転載や無許可使用など、及び画像データへの直接リンクは一切禁じます。
subscriber
総購読数
(2002.05.20〜現在)
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
 |
| 046.『見つめて、振り返って、じゃあね』 |
| Date: 2002.10.01 |
 |
雨はもうすっかり降り止んでいて、水に濡れたアスファルトが街中に溢れる光を反射して、いつもの街とは違う顔を見せていた。
店の入口に立って、折り畳み傘を適当に丸めてボタンを留めていると、
「雨、上がったね」
と後ろから声を掛けられる。お手洗いから戻ってきた彼女だ。
「うん、さ、行こっか」
そう言って賑わう繁華街に再び足を踏み入れる。
雨宿りのつもりで入ったカフェ。
トールサイズ、約二杯分の時間。
話題は途切れることもなく、僕たちは多くのことについて話し合った。腹を抱えて笑うようなことも真剣に語るような会話もしていないはずなのに――どうして、あんなに楽しくて心が弾んだ時間だったのだろうと、ふいに訪れた沈黙に考える。
行き交う人々は僕たちと同じく駅の方向に向かっている人が多い。
もう、そんな時間。
スクランブル交差点の信号が青に変わる。
この信号を渡る時にいつも考えること――「今日は楽しかったね。今度はいつ会える?」のセリフとそれを口にするタイミング。
何も考えずにサラッと言ってしまえばいいのに、一度考えてしまうと、口を開くのを躊躇ってしまう。
僕が思うほどに、いや、僕が思う以上に、彼女にもそう思っていて欲しいから。
交差点では二つの選択肢がある。
左に行けば僕が乗る東急東横線の改札があり、右に行けば彼女が乗る京王井の頭線の改札がある。
躊躇うことなく、僕は彼女の手を引いて右に向かう。
見送られたい人と見送りたい人。
どちらが淋しがり屋でセンチメンタリストと言えば、僕は後者だと結論を出す。
普通に考えれば、見送られたい人の方が好きな人に背中を見守られるのだから、淋しがりのような気もするけど、人一倍淋しがりな人間は自分の心を覆い隠そうとしてしまうはず――そう、僕はそういう人間だ。
見送られる方は好きな人に背を向けなければならない。
それが嫌なんだ。
見送られる方になったら、僕はいつまで経ってもくだらない冗談を言い続けて、その場を動かないかもしれない。
終電も近いのに、明日も早いのに、メイクだって丁寧に落とさなきゃダメなのに、そんな無駄な時間は使わせたくない。
そう、僕はいつだって見送る側の人間。
僕の元を去っていく愛しい人の背中を見るのが好き。
昔からそうだったんだよ。
学生の頃のサークル活動でも、僕はいつでも最後の一人になっていた。一人ずつ減っていく仲間たちに、
「おう、さよなら、またな」
と声を掛けて、いつの間にか一人だけ残ってしまう感じ。
仲間たちが去ったその場所は、さっきまで賑やかだったのが嘘のように静まり返り、それがまたコントラストになってより一層淋しさを募らせる。
それでも、背中を見送られるよりもマシだった。
「ちゃんと切符持った? だったら、さっさと帰れよ、夜道で男に犯されても責任持たないからな」
なんて、別れ際のムードの盛り上がりを拒否するかのように、乱暴で品が無くて優しくもない言葉を彼女に浴びせる。
彼女が何か言い返す前に駅構内のアナウンスが鳴り響き、電光掲示板の文字が点滅して、周りの人の動きが一段と加速していく。
「ほら、もう電車出ちゃうって」
重ねた僕の言葉に、彼女はムッと唇を尖らせて、あっかんべ、と小さく舌を出した。
前を向いて改札機に切符を滑り込ませて、急行が出る一番ホームに向かった。僕はすぐに場所を移動して、柱の影に隠れてそっと彼女の背中を目で追う。
複雑な二つの思いが僕を悩ませる。
別に賭けをしてるわけではない、期待もしていないし、そんなことで彼女を愛情を計っているわけではない――でも、このことを考えた時点で、やはり、僕は期待しているのだ。
彼女が振り向くことを。
くるり振り返って、愛しい目で僕を見つめる視線を。
バッグをしっかり持ちながら、あたふたと急ぐ彼女。
途中、ふと、歩みを緩めて、一度、振り返った。
しかし、元いた場所に僕はいない。
「あれ?」とでも言いたげな表情を見せるがキョロキョロと周りを見渡す時間もなく、多くの人の流れに急き立てられるように、再び、歩き出す。すると何かにつまずいて前にいたサラリーマンの背中にぶつかって、小さく頭を下げてみるのが見えた。
あはは、相変わらず、ドジなヤツめ、と人混みの中、彼女の背中が見えなくなるまで、じっと見つめていた。
いつでも見守ってくれているという温かい理想と、さっさと帰っちゃったんだという冷たい現実。
一瞬の期待と不安の交錯。
彼女だってそんな思いの中で振り返ったのに――まったく僕は素直じゃなく、優しくもなく、意地悪な彼氏だった。
期待が外れて少し淋しげな彼女の表情を見て、安心してしまうような性根の腐った男なのだ。
時に笑顔なんかよりも、そんな彼女の哀しい表情に僕は愛しさを募らせる。
今すぐ、改札機を飛び越えて、彼女がいる車両に飛び乗って、閉まるドアに挟まれながら、愛を貫きたい衝動に駆られる。
どんな顔をするのだろうか。
目をまん丸に見開いてびっくりするに違いない、でも、すぐに、
「いい歳して、みっともない、バカじゃない」
なんて、憎まれ口を叩くのだろう、きっと。
そんな想像に胸を熱くしているうちに発車ベルは鳴り終わり、彼女を乗せた電車はゆっくりとこの街を離れていく。
僕は上を見上げて、ふう、と大きく息を吐いて、改札口に背を向けて家路に向かう。
花の金曜日、混雑している二十三時〇五分発の急行電車。
目の前の席は空いているが、あえて座らずに、吊革に持たれて、慣れない左手でポチポチと携帯メールを打つ。
宛先は言わずと知れた世界最強に愛する人へ――。
用件といえば、短い。
「ったく……あんな所でコケんなよなー (>_<)」
(了) |
|
 |
|
|
|