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僕と君と明日のつづき
四畳半ダンディズム
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細川又三良
(ほそかわ・またさぶろう)
1972年愛知県生まれ、男性。

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041.『理不尽な彼女と複雑な僕』
Date: 2003.03.28

「あ、私、下に着けてくるの忘れた」
  真夜中のファミリーレストランで彼女が言う。胸の辺りを見ると、矯正されていない乳房の膨らみと、その頂上に二つの突起が服の上からはっきりとわかる。
「あらま、ノーブラじゃん。セクシーダイナマイツ」
「って、冗談じゃないわよ」
「ホント、冗談じゃない。ちゃんと見ればすぐにわかっちゃうよ」
「もう、何で、服を着るときに言ってくれなかったのよ!」
と、感情のまま彼女は怒り、胸を隠すように腕組みをしてツカツカと店内に入っていく。その場に残された僕はやりきれない想いでいっぱいだ。
  ち、ちょっと待ってよ、どうして僕が怒られなきゃいけないの? ブラジャーを着けなかったのは自分のせいでしょ? 大体、キミは着替えを見られるのが嫌いなはず、だから、見ていないのだから、そんなこと言えるはずがないじゃないか!
  しかし、彼女の怒りの勢いに負けて何も言えない。
  理不尽な彼女と複雑な僕。
 
「ねえ、美味しい?」
  午後一時過ぎ、彼女が住むマンション。「お昼はウチで食べよっか、ご飯作ってあげる」と彼女が料理をしたのはトマトソースとサラミのパスタ。
「あ、すごく美味しいね」
と言おうとした瞬間、ふと歯に絡まる嫌な感触。これってなんだ? と口から出すと、輪っかになった透明色の切れ端。
「なに? それ?」
と彼女が言う、それはこっちの台詞だろ?
「なんだろう? これ、ビニール?」
「あっ、サラミをそのまま切っちゃったかも。サラミってビニールで包まれてるんだ……」
  おいおい、呑気に笑ってる場合じゃないでしょ。
「これはあり得ないでしょ、普通、触ればわかるじゃない。うわ、信じられない」
  そう言って彼女の顔を見る。少し膨れ面で、あなたのために作ったのに、そんな風に言わなくてもいいのに、と言いたげに乱暴にフォークを置いて、水の入ったグラスをぐいっと傾ける。
「……あ、でも、大丈夫だよ。パスタ自体は美味しいから、うん、あはは」
  そんな風に彼女の迫力に負けて愛想良く笑ってしまう。
  理不尽な彼女と複雑な僕。
 
「ああ、そうそう、最近、私ずっとノーパンなの」
  おもむろに彼女が携帯電話で言う。
「えっ、ノーパンって、何で下着を履いてないの?」
  そう言えば、前に会った時もその前の時も、ストッキングを脱がすとそのまま下半身が裸になったんだっけ。あの時は不思議と思わなかったんだけど、よく考えてみるととても不思議だ。
「今、階段の上にいるんだけど、下から見えれば見えちゃうかも、ね」
「え、ちょっと待って、それは僕が注意することじゃないでしょ?」
  救いだったのが、彼女はいつもパンツか膝丈のスカートを着ていたこと。これでミニスカが好きだったら、もはや完全に露出狂だ。
「うーん、別にあなたを責めるわけじゃないけど、でも、パンティを履かなくなったのは又さんのせいなんだよ」
「は? なんで、どうして?」
  毎日、ノーパンで過ごしてくれなんて、一度も言ってない。
「長い休みの時に、一日中、ずっと一緒にいたことあったじゃない。一日中、部屋に居て、セックスしておしゃべりしてお酒飲んでさ。あの時に、面倒でずっと下着を履かないでいたのね。そしたらそれが気持ち良くなっちゃってさぁ……」
  え、だから、僕のせいだって、それはおかしいんじゃないの? と言いたいけど、黙って聞いてしまう。
  理不尽な彼女と複雑な僕。
 
「あ、今、一瞬、他の人としたいと思っちゃった」
「何を?」
「えっと、セックス」
  おいおいおい、目の前に愛しの彼氏がいるはずなのに、良くもそんなことが言えるよな。僕が他の女の話をするだけで太ももを思いっ切りつねるのに。
「あっそ、そんなに僕とのセックスが物足りないんだ?」
「あ、ううん。その逆」
「その逆?」
「あのね、調子に乗るからあんまりこういうことは言いたくないんだけど、私、あなたとのエッチが今までで一番気持ちいいのね。で、それは、あなたが上手なのか、それとも、私のカラダの何かが変わったのか、確かめたいと思うの」
「だから?」
「ん、だから他の男としたら、どっちなのか分かるのかなーって」
  彼女は無邪気に笑って、そう言うのってわかるよね? と顔を傾けた。
  わかるわけないだろ、と呆れた顔をして顔を逸らすと、僕の腕を引っ張って力任せに抱き締めた。なんだろう、嬉しいような悲しいようなこの気持ち。
  こんな彼女と付き合っていて果たして僕は幸せなんだろうか、と時々思うけれど、こんなショックを与えてくれる彼女も他にはいないので、きっと、僕は幸せなんだと思い込むことにする。
  理不尽な彼女と複雑な僕。



 (了)
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