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僕と君と明日のつづき
四畳半ダンディズム
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細川又三良
(ほそかわ・またさぶろう)
1972年愛知県生まれ、男性。

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039.『十年後』
Date: 2002.04.12
「私ね、祐樹と寝たの」

東銀座から恵比寿に向かうほんの短い間に雨が降った。

「ごめんね、言わないつもりだった」

地下鉄の出入口から階段の向こう、空を見上げる。 

「ずっと、あなたにウソついてた」

いつか見た曇り空に似てるな、と想った瞬間――。

「でもね、でも……」

ふと、君の言葉が思い出された。

「もう限界」

あの夏、僕は君を驚かせようとアパートの部屋の前で待ち伏せを企てた。

「もうダメなの」

突然の雨、そして、アパートで見たもの。

「もう、ウソ付きたくないの」

路肩に泊まっていたターボが付いた見慣れた黒のスターレットと、

「私、祐樹が好き」

バイトをしているはずの君の部屋の明かり。

「祐樹が好きなの……」

ドアをノックしなかったのは君のことを信じたかったから、

「私、ひどい女だよね」

と言うよりも、君のホントの気持ちに気付いていたから。

「あなたの隣にいることが、とても辛かった」

僕も、君とヤツと一緒にいることが辛かったよ。

「知らなかったでしょ?」

いや、君は正直過ぎたよ。

「ずっと、好きだったの」

良いヤツだったけど、女もお金もだらしなかったな。

「祐樹が亜由美と別れた日」

たしか三万も貸して、その上、君まで返ってこなかった。

「あの日、私、バイトするって言ったよね」

お人好しにもほどがある。

「憶えてる?」

ああ、うん。

「あの日ね」

ちょうど、こういう天気、曇り空、突然の雨だった。 

「祐樹をウチに呼んだの」

驚かせようとしたら、

「そこでね」

逆に驚いた。

「祐樹と寝たの」

あーあ。

「私を許して」

許さないって言っても、好きな気持ちは止められないでしょ。

「……彼の代わりってわけじゃなかったの」

僕に抱かれてる時も、ヤツのこと考えていたんだろうね。

「本当にごめんなさい」

大丈夫、あれから、もう十年経ってる……でも、やっぱ嫌だね、今でもムカつくよ。

「あなたは私にとって大切な人、だから、失いたくなかった」

でも、僕は優しすぎた。

「大切な友達なの」

あの頃から、この台詞にはウンザリしてたな。

「これからも友達でいてくれる?」

あれから十年後――。

「祐樹は悪くないの」

ヤツも。

「全部、私が悪いの」

君も。

「祐樹、すごく気にしてたから、あなたのこと」

今、何をしているのかな?

「友達は裏切りたくないって言ってた」

僕は上京してから十年、この街で毎日忙しく暮らしてる。

「私も、ウソは付きたくなかった」

少し痛くて、でも、懐かしい傷跡として、

「ごめんね」

あの日に似た空模様に、君たちのことを思い出しながら。

 (了)
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