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僕と君と明日のつづき
四畳半ダンディズム
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細川又三良
(ほそかわ・またさぶろう)
1972年愛知県生まれ、男性。

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033.『去りゆく友に、淋しき秋の夜』
Date: 2006.08.30
 正直にカミングアウトをしよう。
  生前、会ったことはないが、写真で見る限り、祖父はハゲていた。その息子である我が父親も三十代の半ばぐらいから髪が薄くなり、現在、還暦を過ぎてハゲである。
  父親の血液はA型、母親の血液はO型、兄はO型、弟もO型、そして、又三良はA型だ。兄も弟も今のところ生え際に異変はない、しかし、唯一、父親の血を受け継いだ又三良は――まったく、遺伝とは恐ろしいものだ。
 
  一旦気になり出すと、ふと、鏡や窓でチェックしてしまうから、ハゲは身体の問題というよりも精神的な問題と言えるかもしれない。抜け毛の原因は不規則な生活、バランスの悪い食生活、そして、ストレスだと言われているが、そんなことを言われても、さらに抜け毛がストレスになって、また抜け毛が増えて、負のスパイラルは続いていくのではないだろうか。
  そんな心の弱点を突いてくるのも一つの商売のやり方。
  テレビコマーシャルで大量に流される育毛剤、養毛剤のヘアケア製品やカツラのCM。育毛剤などは中年の男優を配して一緒に頑張ろうと訴えかけ、カツラのCMは若い女の子を配してハゲになるとモテなくなっちゃうよー、なんてイメージを洗脳させて電話しろと促し高価な商品を買わせようとする。
  まったく、世の中は世知辛い。
 
  ある日、僕と付き合っている彼女である景織子と、その友達の友里と食事をしたことがあった。
  まったくの偶然だったのだが、友達の友里がアイデアル・スタンプ・モンタージュを読んでいて、たまたま覗き込んだ景織子が「あれっ、何で知ってるの? 又さんのサイト」と言ってしまったことが、この集まりのきっかけだった。
  食事自体は楽しくたっぷり飲み食いして、楽しくおしゃべりしたところで、お開きとなり、東急渋谷駅から東横線に乗って家路に向かう。
  ふと、窓ガラスに映る自分の姿を見て、覗き込むように見つめる。
「何してるんですか?」
  そう聞いてきたのは友里。
「へっ、ああ、自分の顔見てた……あ、ナルシストとかじゃなくて、ほら、生え際とか随分と薄くなったなーって」
  チラリ僕の額を見て友里は、
「そうですか、全然、大丈夫ですよ」
と笑顔を見せた――と、そこに割り込むのは愛しの彼女、景織子だ。
「いやー、そうでもないよ」
  一言、きっぱりと言う。黙ってしまった僕と友里を差し置いて、話を続ける。
「前に較べて確実に薄くなってるしね、M字型っていうのかな、そり込みが入っていく感じで額が広がって、髪の毛も細くなってるしー」
  景織子は周りの状況に構わず、いつでもどこでも率直に自分の考えを言う。それが魅力でもあるが同時に欠点でもある。
  そして、二人っきりの時は完全甘えモードのMだが、外に出ると突如Sに豹変したりするのだ。ツンデレ属性はかなり高いと言えるだろう。
「自分でもわかってるよ。もうね、オヤジの頭を見れば若いうちから覚悟してるよ。とりあえず、髪を短めにして目立たせないようにしてるけどね」
「あ、うん、短い方が又さん似合いますよ」
  さり気なくフォローを入れる友里、しかし、その空気は再び景織子に蹴散らされる。
「いやー、どうだろうね。短くした方がマシだけど、でも、やっぱり薄毛はハッキリとわかっちゃうよね。坊主とかスキンヘッドにする人も多いけど、毎日きちんと剃らないと、そのうち生え際がハッキリわかっちゃって余計にみっともなくなっちゃう」
  容赦のない景織子の言葉に何も言えなくなってしまう。そんな僕を見かねて、
「でも、今からならまだヘアケアで何とかなるんじゃないですか? うちのお父さんも使ってたし」
と優しく言う友里。優しい子だなぁ、と思う間もなく、間髪入れずに景織子がツッコミを入れる。
「あー、私の知り合いでさ、ヘアケアの会社に勤めてる人がいるんだけど、ド高いシャンプーとか育毛製品を使っても、実際のところ、効果ははてな? らしいよ」
「……そうなんだ」
「うん、調査しても最後は結局、個人差に行き着いちゃうし、規則正しい生活とか髪を清潔にすることが重要って言うけど、ホームレスの人で髪の毛ボサボサフサフサの人いるもんね。ある説ではシャンプーやリンスが髪を傷めるって言うし、やっぱ、生物学的に遺伝が一番強いんじゃないかなぁ」
  景織子の話を聞いていると、ほとんど望みがないと言っているようなものだ。
  その時、各駅停車は自由が丘に到着する。目黒線沿線に住んでいる友里はここで乗り換えだ。
「あ、ここで降りなきゃ」とわざとらしく声に出して言って、「じゃあ、また、今日はすっごく楽しかったです」とそそくさと電車を降りていった。
 
  電車に残されるカップル二人。
  しばらく無言のまま、電車に揺られる。ふと、唇を尖らせたままの景織子が僕を見る。
「もしかして、怒ってる?」
「いや、別に……」
と答える。そう、本当に怒っていない。現実は現実で受け止めた方がいい、ただ、ハゲはハゲなりにカッコイイ髪型なり生き方を探さなければならない。
「しょうがないよ、なる人はなるんだし」
「わかってるよ。欧米の人は二人に一人が薄毛になるらしいね。向こうの人は顔の彫りも深いし、頭の形もいいし、あと黒髪じゃないから日本人みたいに目立たなくて、あんまり気にしないらしいよ。まあ、目指せ、ジャン・レノ、ケビン・スペイシー、ブルース・ウィルスだ」
「いいじゃん、ハゲてモテ無くなっちゃえば」
「うー、ひどい、そんなんで君はいいの?」
「うん、私はいいよ。モテなくなれば浮気もしなくなるし」
「ふん、あっそ」
「そんなので私の愛は変わらないから」
  うれしいのかうれしくないのか、苦笑いをするしかない。
  確かに、景織子の言うとおりに髪の毛一つで人間の魅力が左右されるのならば、それは所詮、又三良という人間の魅力がそれまでのことと言うことだろう。幸い、僕はタレントやモデル、ホストなど、外見で勝負する商売をしているわけではない。他に大切な守らなければならないものがあるはずだ。
  すると、くるっと景織子は僕を向いて、手の平を出した。
「なに?」
「携帯、出して」
「へっ、何で?」
と携帯を取り出すと、そのタイミングでLEDのランプが光る。
「たぶん、友里からじゃない。私がトイレ言ってるときに、メルアド交換したでしょ?」
「え、何で知ってるの?」
  景織子は、はあぁ、と聞こえるようにため息を吐いて、
「――友里は前にも友達の彼氏にちょっかい掛けたことあるし、又さんも女の子からメルアド教えられたら教えちゃうでしょ、もう、丸わかり」
  暗証番号を入力してメールを読むと、やはり、友里からだった。今度、お茶でもしましょう、なんて書いてある。それを読んで伝えると、
「あーあ、今、この瞬間、つるっぱげになっちゃえばいいのに」
と景織子は言って、ツンと鼻を上げてそっぽを向いた。

 (了)
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