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僕と君と明日のつづき
四畳半ダンディズム
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細川又三良
(ほそかわ・またさぶろう)
1972年愛知県生まれ、男性。

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018.『正しい男の捨てられ方』
Date: 2004.09.16
  女を捨てるなら、男も捨てられる。
  男女平等が基本である現代の世の中ではなくても当たり前にあることだ。
  前回、『正しい女の捨て方』というエッセイを書いたが、実際には、僕の恋愛は圧倒的に女性から捨てられるケースが多い。
  正直に言うと、確率的に彼女に振られるのが90%で、僕が振るのは10%ぐらいなのだ。
  好きじゃなくなった女性からタイミング良く切り出されるのなら大歓迎だが、大抵の場合、こっちがラブラブな時にいきなりバッサリと切られてしまう。
 
  女の決断とは恐ろしいもので、先週末まで楽しくラブラブしていたのに、突然、別れを切り出してくるから、こっちも意表をつかれてびっくりする。
  小さな荷物が積み重なって、ある日、いきなり天秤が激しく揺れる感じに近い。そして、傾いて地に落ちたら、もう終わりなのだ。
  僕が何を言っても「もう、決めたことだから」とキレイに切って捨ててくれる。
「それでもなんとかならない?」
  懇願しても、疲れた声で、
「ううん、ダメ、何度も繰り返したくない」
と、とりつく島もない。
  受話器から鼻を啜る声が聞こえてきたら、もう、おしまいだ。
  ジ・エンド・オブ・マタサブロウ。さようならの言葉、ちゃんと言える?
  後ろ髪を思いっ切り引かれる気分で、
「わかった。さようなら、元気でね」
と告げてボタンを押して、通話を終える。
  携帯電話を机に置いた後、彼女は涙が乾くのと同時に僕のことを想い出の人として記憶の彼方に葬り去ってしまうのだろうか。
  泣けない僕は――彼女を“あのひと”に昇華させるまで重い気持ちを引きずりながら、歯を食いしばって生きるしかない。
 
  そんなことを、以前、付き合っていた彼女に話すと、
「そうそう、男にだって、正しい捨てられ方があるのよ」
と僕に向かって言った。
『正しい女の捨て方』に対して『正しい男の捨てられ方』。
  女を捨てるなら、男も捨てられる。
  まったく、世の中は僕が望むようには出来てないみたいだ。
  その日、渋谷にある洋風居酒屋で飲んだシャンパンは口当たりが良すぎて、酔いが回った彼女は思い付くままに、男の捨てられ方について話し出した。
  記憶は定かではないが、僕なりに要点をまとめてみた。
 
1.突然に告げられても、怒らないこと。
  突然に別れを切り出されても、怒鳴ったり、声を荒げて問い詰めたり、ビンタを食らわしたりと暴力を振るってはいけない。まあ、この辺は当たり前なのかもしれないが、突然の告知はやっぱりビックリする。
 
2.本当に好きなら、少しは粘ってよ。
  たとえ、別れが決定的だったとしても、ちょっとぐらいは粘って欲しい。あっさりと「はい、了解。終了、撤収、さようなら」とキッパリ言われても、今までの自分の悩みは何だったんだろうと思ってしまうから。
 
3.女の方ばっかり悪者にしないこと。
  別れを告げたのは私かも知れないけど、でも、そこに到るまではあなたにも到らない点があったわけで……私ばっかり悪者にしないで、あなたも自分が悪い所を見つめ直そう。それは次の恋愛に繋がるわけだし。
 
そして、オマケとして、
4.別れても、友達でいられるならそうして。
  恋人じゃなくなっても友達でいられるのなら、そうして欲しい。深夜にふいに電話をしても「どうしたの? 何かあった?」と愚痴でも優しく話に付き合って欲しい。時々、食事をしながら屈託のない話ができる関係になれば、なお良し。ただし、強引によりを戻そうとしたり、ホテルに誘おうとしたり、関係を複雑化するのはあまり好まない。あくまでも過去を持つ故の優しい関係としての友達付き合いをして欲しい。
 
  他の事も言われたような気がするが、僕も酔っ払っていたのでこれ以上のことを思い出すことはできない。当然、これは彼女の意見であり、多くの女性に尋ねれば、その人なりの『正しい男の捨てられ方』があるに違いない。
 
  僕の素直な感想を言えば、
「うへぇー、ほへぇー」だ。
  ニュアンスは各々ご自由に感じ取って欲しい。
  女っていつも身勝手なことばかり言ってるよな、と思っても、『正しい女の捨て方』なんて男の身勝手な別れについて書いた僕には反論する権利は無い。
 
  それでも、四畳半ダンディズムを書く又三良として、唯一、これだけは守らなくてはならない『正しい男の捨てられ方』があるとするならば、別れた後、元カノに関する悪口は一切言わないことだと宣言しよう。
  時々、元カレと元カノがそれぞれ新しい恋人を伴って、偶然、出会すシチュエーションがある。性格の捻れた元カレは今カレを値踏みするように足元から眺めて、
「コイツさ、○○してる時、××でしょ?」
と元カノを親指で指差しながら、ねじ曲がった優越感を口元に浮かべて鼻で笑ったりする。
 
  ああ、史上最低の人間ですね。
  たとえ、彼女にお金をたっぷりと蜜がされて、浮気されまくって、挙げ句の果てに二股かけられてポイ捨てされたとしても、男として、過去に愛した女の悪口を言うのは、とてもみっともない行為だと僕は思う。
  別に、過去をすべて美しい想い出に変える必要はないけれど、あの頃、二人の間にあったことは二人だけの記憶。それを復讐とばかりに、所構わずにぶちまけるのはルール違反以前に、人間の品位に関わる問題だ。
  そう、そこは守らなければならないプライドなのだ。もっぱら、これは男、女ともに関係ないことなんだけど。
 
  最後に、捨てられた後の又三良について語ろう。
  もう、時は戻らないと確信した後は、別れ際に彼女から送られた最後のメールをメルアドや彼女の名前が残らないようにコピー&ペーストして保存する。あとは携帯番号や携帯メルアドなど、彼女に繋がる一切の連絡ルートを断ち切ろうと、すべてを削除する。
  それでも記憶に電話番号などが残ってる場合があって、数日後、ウジウジと連絡をしてしまったりするから、それからしばらくは徹底的に忘れようと努力する。
  もちろん、それだけでは気持ちの収まりようがないから、彼女について短い文章を書く。それは誰に見せるわけでもない、固有代名詞のない「君」宛ての手紙。
  サッと書き上げた後、少しだけ落ち着いた気分になって、ファイル名を振られた日付にして、彼女の最後のメールの文面と共に保存する。
 
  これを読んでいる、かつて、僕が愛した君へ、こんな事、僕がしてたのなんて知らなかったでしょ?

 (了)
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