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細川又三良
(ほそかわ・またさぶろう)
1972年愛知県生まれ、男性。

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016.『正しい女の捨て方』
Date: 2004.09.14
 こういうコラムを書くと、意外にも女性よりも同性である男性からの非難を多く受ける。
「ケッ、モテを自慢しやがってよ」とか「何かムカつくんだよな、コイツ」と憎々しい顔で吐き捨てるように言われるのが目に浮かぶ。
  それに加えて女性にもあまり支持されないだろうから、実際に書くだけ損なコラムである。
  しかし、思い付いたからには書かなければならない。例え、誰に嫌われようとも、モノを書く人間ならば、自分の中から出てきた言葉は何よりも優先して書かなければならない。
  まったく、損な生き方である。
 
  別にモテる男ではなくても、女を捨てる時はやってくる。
  単純に彼女のことが好きではなくなったり、他の女性が好きになったり、二人でいることより一人でいることを望んだり……別れの理由はそんなに多くない。
  しかし、スムーズに別れるのは案外、難しかったりする。
  お互いに納得して「はい、さようなら」が出来ればベストだが、この場合、どちらかによる一方的な恋愛関係の破棄なのだ。相手がどれだけ愛してくれようとも関係なく、自分の気持ちだけで文字どおり切って捨てなければならない。
  愛し合った月日が長かったり、楽しかった想い出が色濃いほど、別れ話はもつれにもつれる。捨てられる側が感情的に執着してしまうのは仕方のないことだろう。
 
  そう、人間は誰しも嫌なことはしたくないし、悪い者にはなりたくない。
  だから、この世の多くの人は“優しさ”という言葉を隠れ蓑にして、すっぱりと切り捨てることが出来ずにウダウダしてしまう。そのくせに、
「ごめんね、僕の優しさが君を傷付けてしまうんだね」
みたいなセリフをいけしゃあしゃあと言ってのける。
  そんなののどこが優しいんじゃ、と思ってしまう。何とか穏便にキレイに美しく別れようとするのはわかるけど、結局は自分可愛さに大事なものを誤魔化しているだけなのだ。
 
  かつて、愛した女性に対して僕ができることは何だろう、と考えると、僕は一つの答えしか思い浮かばなかった。
  未練ともども一刀両断すること。
  返り血を浴びることを覚悟で、切って捨てて生きていくのだ。
 
  僕なりに、正しい女の捨て方を箇条書きにまとめてみると、
1.徐々に気のない素振りを見せていく。
2.別れの理由をちゃんと述べる。
3.別れ際の余計な優しさは無用、極悪人になりきること。
  もう、この3点に限られるのではないだろうか。

  1.については、突然、告げるよりも徐々に心の準備をしておくようにとの配慮である。会う回数を減らしたり、素っ気ない態度を取ったり、メールの数を少なくすることなど、日頃の生活から言葉以上に態度で示すことが大切である。

  2.別れの理由はダイレクトに告げること。僕の場合「もう、好きじゃなくなった」と正直に言うようにしている。しかし、もし他の女性を好きになったという理由ならば少し考えなくてはならない。新しく好きになった女性のことは黙っていた方が賢明だろう。もし、好きになった女性が彼女と知り合いの場合は後々問題がこじれるよりも、この時点でちゃんと説明した方が良いだろう。血を見るのは明らかだが、問題は早めに対処しなければ傷が深くなるだけだ。

  3.別れ際に情けは無用でバッサリと斬った後には余計なフォローも優しさも見せないこと。メールは即ゴミ箱、携帯は着信拒否、すべての連絡を遮断すること。別れたら文字どおりアカの他人になるのだ。
「ごめん、僕が悪いんだね」なんて自分に酔うよりも「すみません、別れてください」と同じ頭を下げるならこっちの方がいい。
  どうせ切って捨てるなら、極悪人になりきった方が良いだろう。
 
  ここまで徹底すれば、さすがに相手も呆れて諦めてくれるはずだ。
  そりゃそうだ、いくら好きな相手でも自分を愛してくれないのなら、付き合うだけ時間の無駄だから、他に楽しく付き合える人を見つけた方がいいに決まってる。
 
  しかし、人のココロほど不可思議なものはこの世の中はない。
  相手の気持ちが離れているのを承知で、すがってしまう女もいるのだ。
  ここまで偉そうに言っておいて申し訳ないのだが、僕は、そんなすがる女と上手に別れることが苦手だったりする。キッパリと別れを告げることはできる。しかし、その後で女性から何度もすがられてしまうと、ついつい関係を継続してしまうのだ。
  それは、自分が求められていることの心地良さだろう。
  こんなにもきっぱりと切り捨ててるのに、それでも僕のことをまだ好きだなんて、なんて深い愛なんだろう、とバカな僕はそう思ってしまうのだ。そして、すがる女は別れて欲しくないために、こちらの言うことを無条件で聞いてくれたりするからだ。
  サイテーな男とは確実にこの世界に存在する。
  僕の場合、別れ切れなかった女とも付き合いながら、別の新しい恋人と恋愛を始めた。つまりは二股だ。一方とも適当に遊び、それをナイショにして本命とちゃんと付き合うのだ。
  しかし、その状態は長くても三ヶ月弱で破綻してしまう。
  そりゃそうだろう。やはり、好きではなくなった相手と付き合うのはただ疲れるだけなのだ。話そうがセックスしようが、ご飯をおごってもらおうが、何しても一緒にいるだけで心が疲弊してしまうのだ。
  そして、ある日、半ばキレ気味に「もうダメだ」と別れを告げることになり、再び彼女を傷付けてしまう結果になる。
  同時に自分の甘さを目の当たりにして自己嫌悪に陥ってしまい、その夜、つい缶ビールを飲み過ぎて、部屋中を空き缶だらけにしてしまう。
 
  実際のところ、一番スムーズなのは女性から別れを切り出させることだ。それができれば何も自分から捨てなくても済む。
  記憶は定かではないが、ずっと前に、たぶんビートたけしだったと思うが、
「女と別れるなんて、簡単だよ。一緒に寝てる時に布団の上でウンコすりゃいいんだよ」
と言ったのを聞いたことがあった。
  うむ、そりゃ確かに即別れが成立するかもしれない、が――ちょっと人間を捨てなきゃできないよな、と苦笑する。
  こっちが好きじゃなくなった時点で、女性からタイミング良く別れを告げてくれれば楽なのだが、人生そんな風に都合良く出来ているわけがない。だから、僕にできることは正直に誠実に最後の言葉を告げるしかないのだ。
 
  最初にも書いた通り、このコラムを読んで僕に嫌悪感を抱く人はいるだろう。女を捨てる、という表現についても批判の対象になるに違いない。
  まあ、批判をするのは一向に構わないが、では、僕を批判する人は好きではなくなった人と別れる時、一体、どんな言葉で切り出すのだろうか――。
 
  もし、女なんて捨てたことは一度もないと、ことさら自慢気に語る人間がいるとしたら、僕はその人間のことを信用しないだろう。どう考えても、切る方より切られる方が痛いのだ。ならば、その痛みが長引かないようにすることが唯一の誠意ではないのか。
  口先でキレイ事ばかり言うヤツに限って、自分だけを守って、ひどくズルイやり方で人を傷つける。僕はその例を数え切れないほど見てきた。
  自分はそんな人間にはなりたくない。
  だから、僕は正しく女を捨てる。
  別れるのではなく、捨てるのだ。
  それは男の別れの美学でも何でもなく、かつて愛した女性への精一杯の誠意なのだ。

 (了)
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