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僕と君と明日のつづき
四畳半ダンディズム
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細川又三良
(ほそかわ・またさぶろう)
1972年愛知県生まれ、男性。

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015.『そして、男たちは疾走する』
Date: 2003.06.03
 久しぶりに実家に帰って、地元にいる学生時代の仲間と会った時、一学年下の後輩がアメリカンなバイクに乗っていることを知った。
  驚いたのが、一人だけではなく二人同時だったこと。彼らに聞けば、別にお互いに示し合わせたわけではないと言う。
  学生時代、彼ら二人はまったくバイクに感心を持っていなかった。それなのに、三十代にもなって家庭を持っているのに、この時期にどうして彼らは免許を取得してバイクを購入したのだろう。
  彼ら二人の共通点は二十代の後半で結婚して、幼い子供がいること。
  久しぶりに会う彼らは、あの頃と何ら変わらない表情で、
「お久しぶりですね、又先輩」
と敬語で言うのだけど、子供を接する彼らを見ていると、彼らは親であり、何だか彼らの方が人生の先輩に見えてくる。
  そんな人生の逆転現象――誰もが経験する人生の通過点。
 
  久しぶりに僕が帰省したことで、仲間の一人が開いてくれた河原の公園でのバーベキュー。懐かしい昔話も大いに盛り上がるが、一通り話せばネタも尽きて今現在の自分たちに話題が移る。
  先輩や同学年の結婚話もすでにあらかた片づいて話題は子育てにシフトしている。子どもたちはまだ幼く、親の目が届く範囲で虫を追っかけたり、よその子とケンカして泣いたり、その都度、話は中断しつつも、朗らかな春の陽射しに僕たちは今を共有しようと、身近な話題を口にする。
  その時に、彼らの口から出たのはバイクの話だった。
「どうしてまた、バイクなのさ?」
  僕は素朴な質問を彼に投げた。
  彼から返ってきた言葉は、
「別に意味なんてないっすよ」
と短い返答。
「いつ頃、乗ってんの?」
「そうっすね、大抵、夜中ですね。メシ喰って子供が寝静まった後に、三十分ぐらいそこらを走るだけですよ」
  バーベキューにはもちろん奥さんも参加しているから、今度は彼女に話を振る。
「え、カナちゃんもバイクを買うの賛成したの?」
「えー、まさか、大反対しましたよ。これから子供にもたくさんお金掛かるし、何より事故とか危ないし」
  これ見よがしに彼に聞こえるように呟く奥さん。彼はその嫌みを返すように、首が据わったばかりの娘に向かって言う。
「全然、あぶなくないでちゅよねー、パパ運転上手いでちゅからねー」
  あはは、と笑って、その話題は途切れた。ケンカになる前に終わらせようと、僕も話を続けようとは思わなかった。
 
  それから数日後、ある女の先輩の家に遊びに行った時、もう一人、最近、バイクを購入した後輩の話題になった。
  確か、明るくておしゃべりな奥さんがいて、娘も順調に育っていると思っていたが、詳しい話を聞くと家庭環境はほぼ破綻を来していた。
  理由は、奥さんの育児ノイローゼ。
  明るかった彼女は実は育児に悩んでいて、今は家事を放棄して実家に戻って病院に通っているらしかった。そして、後輩である彼は今まで勤めていた営業を辞めて、子供のために早く帰宅できる会社に転職したと言う。
「ホントに、そんな時にバイクを買って何を考えているんだろうね?」
  そう言って、先輩は不思議そうに首を傾げた。その女の先輩は僕よりも一歳年上で、すでに結婚していて子供も二人いた。男の僕には何となく彼の気持ちがわかるような気がした。
  仕事、家庭、子育てのすべてが一挙に彼の肩に重くのし掛かる。
  自分だけの人生ではないので逃げるわけにはいかない。それでも、ふと、すべてを忘れたい一瞬がある。そう、逃げるのではなく、ただ、一瞬忘れたいだけなのだ。
  その衝動が彼らに免許を取らせて、バイクを買わせたんだろう。
  きっと、本人はそんな分かり易い理由として口には出さないのだろうけど。
 
  時を戻して、再び、バーベキューの日に戻る。
  しこたま酔っ払った僕は、停めてあった後輩のバイクに跨って、
「これで堤防をぐるっと一周しようよ」
と半ば先輩の命令口調で彼に言った。あれから何年経っても、一度築いた先輩後輩の関係は歳を取っても変わらない。
  後輩は奥さんの手前、困った顔をするが、すぐに「しょうがないなぁ」と笑みを噛み殺すように僕にヘルメットを投げ渡す。
  キーを回してエンジン音を響かせて、初夏の優しい風の中を走り出す。
「ね、先輩、気持ちいいッしょ?」
「ああ……なあ、こうやって奥さんも時々乗せてあげればいいんじゃない?」
「あー、前に誘ったことあるんですけどね、アイツはこう言うのダメなんで」
「そっか、じゃ、理解は永遠に得られないな」
「先輩、ちょっと飛ばしますよ」
  彼はそう言って急にアクセルを拭かした。
  瞬間、後ろに引っ張られるような感覚でスピードが上がっていく。緩やかなカーブを超えると、目の前にはまっすぐに伸びる直線、ストレートが見えた。
  そして、男たちは疾走する。

 (了)
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