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author
細川又三良 (ほそかわ・またさぶろう)
1972年愛知県生まれ、男性。
art direction & design
Instant Design Works
photograph
matasaburo EXHIBITION |
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| 011.『ウイニングイレブン狂想曲 後半戦』 |
| Date: 2006.04.16 |
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(※『前半戦』のつづき)
そんな時、書店に立ち寄ると、ふと、平積みになっていた本が目についた。
プロに聞く選手のコーチング術と書いてある。おもむろに手に取って読み始めると、そのまま止まらずに、結局、その本を購入することになった。
他にもネットで様々なコーチング術を勉強し、そして、自分なりの考えも含めて以下の三点を結論として導き出した。
1.常に対話を心がけ、感情的に叱らないこと。
感情にまかせて一方的に叱るだけでは、かえって萎縮させて何も耳に入らなくなってしまう。まずは冷静に対話をして相手に自分の頭で考えさせることが大切である。
2.指摘ポイントは三つだけ。
多くの事を言っても混乱するだけ。重要なポイントはシンプルに三つほどに絞って、あとは改善が見られるまで、それを何度でも繰り返し伝えること。
3.試合前には気分を乗せて、プレイ中は褒めること。
まずはゲームを楽しもうと気持ちを盛り上げる。ミスを責めるのは最小限に抑えて、よいプレーを集中的に褒めるようにする。
たかがゲームに何、真剣になってんの?
と笑う読者もいるだろう。ところがどっこい、このコーチングは実生活での僕と彼女のコミュニケーションに小さな革命をもたらしたのである。ウイイレをやり始めてから、僕とリナの間にあった様々な問題についても同じような方法で解決するようになったのだ。
日本代表の中田英寿選手がよくインタビューで言う「声を出す」ことの大切さもよく分かった。自分が何をしたいのか、相手に何をして欲しいのか、はっきりと自分の意志を声にして伝えること――それはすべてのコミュニケーションの基本だ。
何も言わないうちから「わかってよ」とか「察してよ」なんて思うのは大間違い。言い合うことで、初めてお互いの意見の違いが明確になって、お互いを深く知ることが出来るのだ。
そして、僕とリナはウイイレのチームプレイを通じて、単純に恋愛感情だけではない、もう一つの絆も結ばれていったのである。
そして、無敗で勝ち上がったインターナショナルカップのファイナル――決勝戦。
相手は攻撃力が世界でもトップクラスのアルゼンチン。
ズラリと並ぶタレントを前に、僕とリナがプレイする日本代表は中盤を支配されて、次々にピンチが訪れた。それでも前半は無失点で何とか持ちこたえ、どうにか後半で巻き返したいと思った直後、前半四十分過ぎ、ファールからのリスタート、一瞬の隙にクロスを上げられてクレスポの豪快なヘディングで先取点を奪われる。
「うわー、ダメだ、やられた」
前半終了際、一番やられてはいけない時間帯に点を奪われてしまった。一度、大きく落ち込んだ気持ちはなかなか戻らない。
そのまま0−1で後半開始。その直後、僕は俊輔を操作していて、パスの出し手がなくて迷っている間にボールを奪われて、オルテガからバディストゥータにパスを通されて、決定的な二点目を失う。
この時点で0−2。しかも、キックオフ後、パスをカットされて焦った僕は後方からのスライディングタックルをしてしまう。稲本、レッドカードで痛恨の一発退場。
「あー、くそー、もうダメだわ」
集中力と気持ちがプツリと切れる瞬間、そう言い捨てた僕にリナが静かに言った。
「何言ってんの、まだ時間あるし、二点差じゃん」
「そうだけど、キツイよ。相手、アルゼンチンだし」
「アルゼンチンって強いの?」
「強いよ、ブラジルと並ぶぐらいに強い」
「……へー、全然知らなかった、でも、このまま負けたくないよ」
画面ではリケルメの直接フリーキックが外れて、キーパーからのゴールキックで試合が再開される。
突然、彼女は、
「慌てず、焦らず、諦めず、だよ」
と呟いた。
「何だよ、それ」
「この前、オリンピックで金メダル獲った水泳選手がそう言ってた」
そう言って押し黙った彼女の横顔を見て、僕もコントローラを握り直して、再び、画面に向かった。
その瞬間、彼女が操作する加地が右サイドを突破する、アルゼンチンのディフェンダーが前を立ち塞がる、とその前に、少し早過ぎるタイミングでアーリークロスを上げた。
「早過ぎだろっ!」
と僕は叫ぶ。彼女はいつも困るとすぐにクロスを上げてきた。
案の定、ボールは久保と高原を超えて、左サイドに流れる――と、今回は早いタイミングのクロスが功を奏した。そこには三都主が走り込んでいた。そのまま構わずシュートボタンを押す。ボールはキーパーの手を抜けてゴール右隅、サイドネットに突き刺さる。
「うっしゃー」とバチンとハイタッチする。
ゴール、1−2の一点差。
もう一点獲れば同点に追いつける。サッカーでは二点差は一番危ないと言われる意味がよく分かる、追う方の気持ちに勢いが出るからだ。強い気持ちのままに攻勢に出る日本代表。しかし、相手陣内に攻め入ることが出来るのに、ペナルティエリア内に決定的なパスが届かない。
刻一刻と時間が過ぎ去っていく。
四十五分を過ぎ、画面上にはLOSSTIMEの表示。
ディフェンスの最終ライン、中澤からのロングフィード、中田にボールが渡るが両サイドは上がっていない、その時、彼女が操作する俊輔が上がってくる、すかさずパス、と言ったら、アンド、ゴー。
見事にワンツーが決まり、敵ボランチを置いてけぼりにしてペナルティエリア内に侵入する中田。エリア内でマークにつくのはシメオネ。
鋭く切り返してパスを出そうとすると後ろからのレイトタックル。ピーと笛が鳴ってのPK。シメオネは今日二枚目のイエローカードで退場。
キッカーは2プレイヤーとなって彼女が蹴ることになる。ゴールキーパーはヘルマン・ブルゴス、キッカーは中村俊輔。
ゆっくりと助走をしてボールを蹴る。瞬間、僕は「左っ!」と叫んだ。キーパーも左に飛んだ、しかし、彼女は真ん中にズドンとボールを叩き込んだ。
ゴール、2−2、後半ロスタイムでの同点弾。
「ようし」とハイタッチをするが、僕も彼女もあまり喜んではいなかった。そう、まだ試合に勝ったわけではなかった。
静かな興奮に包まれてゴールデンゴール方式の延長戦が始まる。
気持ちは逆転へと盛り上がるが、三人の選手交代も使い果たし、稲本の退場により多くの選手が疲弊していた。ここからアルゼンチンの怒濤の攻撃が始まる。キーパー楢崎の神懸かり的なセーブで何とか耐え抜くが、セカンドボールが拾えずにアルゼンチンの攻撃は続く。
延長戦前半が終わり後半戦。
ほとんどの選手のスタミナはゼロに近づいている。もはやチャンスは少ないだろう、プレッシャーに負けずにワンチャンスをどう活かすのかが勝利への道だ。
センターバック宮本のクリア、それを小野が繋いで高原から交代した柳沢にパス。柳沢が落としたボールをリナが操作する中田がドリブルで持ち込み、前線を走っている久保にロングパス――走り込むタイミングに合って、ピタリ足元に収まった。
線審を見る、オフサイドはない。
キーパーと一対一、スティックを素早く倒してフェイントを入れて、キーパーの体勢を崩した所でゴール右隅を狙ってシュート。しかし、ボールはキーパーの伸ばした手に弾かれてエンドラインを越えた。
前半戦後半もすでにロスタイム。
右コーナーキックのキッカーは俊輔、操作をするのは僕だった。
コーナーキックを蹴る前から、どこか予感めいた感覚があった。
「いくよ」
その声を合図として、二人の呼吸をピタリと一致させる。
俊輔の左足から放たれたボールは緩い放物線を描いてファーサイドへ。そこにはボンバーヘッド中澤佑二の飛び込む姿があった。ウイイレ特有の処理落ちで文字通りゆっくりとスローモーションのように見える。
――決まった。
ゴールインする前になんとなくわかる。ボールはそのままゴール左上に突き刺さり、3−2、起死回生、日本の逆転ゴールが決まる。
そして、試合終了。
僕とリナが操作する日本代表チームは逆転でアルゼンチンを破って、インターナショナルカップの初優勝を飾った。画面には優勝を喜ぶ選手たちの姿が表示されている。クイーンの『We Are The Champions』が流れる中、僕とリナはコントローラーを放り捨てて、その場で抱き合って喜んだ。それは恋人とだけではなく、チームメイトと言っても過言が無いほどの熱く固い抱擁だった。
それから、僕とリナはPS2用のマルチタップを購入して、僕やリナの友達カップルを呼んではカップルマッチに誘ったが、多くの場合、彼氏の方が乗る気でも彼女の方が「ええー、いいよ、出来ないし」と消極的であまり実現出来なかった。
そして、僕とリナは彼女の身内に起きた不幸な出来事をキッカケに別れることになった。
それからも一人でウイイレをプレイすることはあっても、あの時、リナと二人でプレイした時の喜びを越えることは一度たりとも無かった。
このエッセイを読んで、もし、彼女がサッカーファンだったら(もしくはそうでなくても)一緒にウイイレをプレイすることをオススメする。もちろん、敵チームでは無くて味方チームの協力プレイで。
試行錯誤を繰り返す中で、きっと、あなたたちは二人の仲に今までにない新しい関係を発見することが出来るだろう――。
(了) |
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