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僕と君と明日のつづき
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細川又三良
(ほそかわ・またさぶろう)
1972年愛知県生まれ、男性。

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010.『奇跡の一週間』
Date: 2001.11.07
【奇跡・奇蹟】 きせき
ふつうでは考えられないふしぎなできごと
(学習研究社 国語辞書より)
 
「その時、誰もが奇跡を信じていた。そう、窮地に追い込まれた人間たちに、最後に残されたのは奇跡という名の希望だった」
 奇跡はこんな風にドラマティックに使われることが多い。しかし、そんな大げさではない奇跡だってある。
 
  これから僕の書くのは実話だ。
  嘘いつわりの無いことを読者の皆さんに誓おう。
  今から、ちょうど一年前ぐらいの話だ。
  僕は奇跡の一週間を体験した。
 
  月曜日。
  会社に出勤する途中、キャスターマイルドを一つ購入する。お釣りのでないように硬貨を投入してボタンを押す。
  商品取出口からタバコを取って胸ポケットにねじ込み、いつもの癖で硬貨の返却口を人差し指で探る。
  あ、十円玉みっけた。
  これこそが奇跡の始まりだった。

  火曜日。
  仕事で銀座にある大手広告代理店にいた。
  そこで打合せを終えてエレベーターを待っていると、ドアが開いたと同時に、いきなり両手に書類を抱えたOLさんが足早に出てきて、正面に立っていた僕の肩にぶつかった。
  よろめく彼女、慌てて書類を抱きかかえる。
  その時、チャリーンと金属音がした。
  あ、十円玉だ!
  十円玉は転がってエレベーターに向かっていた、慌てて革靴の下に踏みつけて、拾い上げると、OLのお姉さんは既にその場にはいなかった。
 
  水曜日。
  会社の人間と飲み会。
  しこたま酔っぱらい、次の店に行こうと思って、イスの下に置いたリュックサックを手に取ろうとした瞬間――。
  床のタイルに鈍い光沢を放つ物体が見えた。
  なんだろ、と思って拾ってみると、十円玉だった。
  背中で名前を呼ばれて、サッと拾い上げてポケットに入れてみんなの後に続いて店を出る。

  木曜日。
  企画書のプリントアウトが間に合わず、打ち合わせに遅れそうになって、仕方なくタクシーを捕まえる。
  あと五分。時計とにらめっこしながら、イライラと信号待ち。
「もう、ココでいいです」
  とメーターを止めさせて、財布を出し運転手にお金を払おうとすると、 僕の手から滑り落ちた五百円玉。
  拾おうとすると、 五百円玉の隣には、またもや十円玉。
 
  金曜日。
  東急東横線。自由が丘駅のプラットホーム。
  お年玉袋のような小さな紙袋が落ちていた。
  どうしても気になって、人目を気にしながら拾ってみる。
  どうせ、何も無いだろう、と思いつつ手で探ってみる。
  すると、丸くて固い感触。
  まさか……そう、また十円玉。
 
  土曜日。
  休日出勤が続いて、久しぶりの休み。
  家から一歩も出ない予定だったけど、サッと下だけ履き替えてコンビニに向かう。
  雑誌とタバコとオレンジジュースとビールとお菓子とアイスクリームを買って、レジでお金を払う。
  るんるん気分で店を出ると、駐車場の白いペイントの上に丸い物が。
  ガムの跡だと思っていると、 また会ったね、十円玉。
 
  日曜日。
  突然の電話で休日出勤。
「月曜の朝までにカンプ欲しいのよ、カンプ」
  まったく、だから、僕が言うように金曜日に準備しておけば良かったのに……と会社に出勤する。
  ふと、十円玉の奇跡が気に掛かる。今日、また十円玉を拾えば、一週間連続になる。これはもう奇跡以外の何物でもない。
  だから、無意味に遠回りして会社に向かったり、タバコも自販機で購入し、昼飯を買うのもいくつかのコンビニをハシゴしていた。
  しかし、十円玉には巡り会わなかった。
  しょせん、そんなもんだよな、と思う暇もなく、鳴り続ける催促の電話に仕事を始める。 休日だから早く帰りたい……平日よりも凝縮された集中パワーで仕事を済ませる。
  上がったデータをバイク便のお兄ちゃんに手渡し、午後九時ぐらい会社を出る。
  電車に揺られ、駅に降り立ち、家に向かって歩く。
  アパートの廊下。
  ふと、気付いてじっと見つめる。
  自分の部屋の玄関の前。
  何か落ちている。
  何だろう? あの、黒い●。
  まさか、
  そう、僕の部屋のドアの前に落ちていたのは…… まさしく十円玉だった。
 
  計七十円の奇跡。
  ウソみたいだけど、ホントの話。

 (了)
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