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僕と君と明日のつづき
四畳半ダンディズム
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細川又三良
(ほそかわ・またさぶろう)
1972年愛知県生まれ、男性。

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006.『地雷踏みの彼氏』
Date: 2006.04.08
 僕は知らないうちによく彼女の地雷を踏んでしまう。
  知らないうちに?
「よく言うよ」と過去に付き合った彼女たちからの声がどこかから聞こえてくる気がする。そのとおりかも知れない。
  僕は目の前にいる彼女の声が次第に小さく弱くなっていることを感じ取りながら、その会話を続けてしまうことがある。そして、彼女の瞳に溜まった涙が頬を伝ってから、ようやく自分が地雷を踏んでしまったことに気付くのだ。
  僕のすべきことは、たった一つだけだった。
  曖昧に適当に緩やかに話を終わらせて、次の話題を振ること、出来れば面白い話でもして彼女の笑顔を取り戻すこと――。
  しかし、僕はいつも退路を失った最前線の兵士のように前に向かって突き進んでしまう。
 
  彼女たちの理由は様々だ。
  彼女の仕事や職場の人間関係だったり、自信の無い自分だったり、過去のトラウマだったり、それは予告もなく突然に訪れる。
  空気に敏感な女性ほど、自分の気持ちを抑え込み、表面上、何でもない振りをするから、男は気付かない。そして、男が特に自分が知っている分野だったり、自信があることだったりすると、彼女の気持ちの乱れをわかろうともせず、正論をぶちかましたり、解決法を提示したり、説教を垂れたりする。
  それがまた正しいことだったり、男の優しさからくるものだからこそ、彼女は何も言えない――でも、彼女の心は何かに挟まって押し潰されそうになる。いくら理性で押さえ込もうとしても、感情は悲鳴を上げて胸を締め付ける。
「ごめんね、もう、その話をしたくない」
  彼女だってその言葉など言いたくないのだ。
  言わせてから、僕は地雷を踏んでしまったと後悔してしまう。ただ、うんうんと、話を聞いてあげるだけで良かったのに。
 
  さらに僕の悪いところは地雷を踏んで、片足が吹っ飛ばされた後でも、這いつくばって何とか前を進もうとすることだ。
  具体的に言えば、彼女が止めてと言っても話を続けてしまうのだ。
  何故だろうと考えて、答えは一つしか見つからない。
  僕の性格的に、自分の弱い部分を見つけたら、それを直視しないと気が済まないからだ。蓋を開ければ自分が傷付くのがわかっていても、蓋を開けて見てしまうタイプなのだ。弱い部分、汚い部分、狡い部分など直視したくない自分からも逃げ出さないようにしたいからだ。
  きっと、これは僕が小説やエッセイを書く人間だからだろう。
  自分の中に溜まる綺麗な物と汚い物も冷静に観察して、紙に書き写す能力が無ければ、そもそも人の心を掴む文章など書けやしないはずだ。
  僕はそう思ってる。
 
  世の中は悔いと虚しさに充ち満ちている。
  見たくないものなんて、目の前にいくらでも転がっている。
 
  今でも、不意に脳裏に甦って死にたくなる記憶。
  中学二年の夏、僕は若さと無知ゆえの発言で、大勢のクラスメートの前で恥をかいて大笑いされたことがあった。昔の友人に会えば「へっ? そんなことあったっけ?」と思えるような事でも、僕は今でもリアルに思い出すことができる、と同時に手のひらにじっとりと汗を感じてしまう。
 
  三ヶ月ほど前に発表されたある文学新人賞の結果。
  応募した作品は最終選考どころか一次選考にも通らなかった。何十時間を掛けて書き、何十回と手を入れて、秘かに自信を持っていた作品だった。自分のすべてを出したが、文字通り、箸にも棒にも引っ掛からなかった。自分の名前が載ってないのを目の当たりにした時、自分の世界がすべて否定されたように思えてしまった。
 
  掲示板や2ちゃんねるに書かれる又三良への誹謗中傷。
  ナル、キモイ、才能なし、氏ね、閉鎖しろ――そんなカキコへの対抗策は一つだけ「無視しろ」しかない。そして、真っ暗な闇の中、粘着の連中は嘲笑いながら見えない場所から僕をサンドバッグのように何度も執拗に殴り続ける。慣れているつもりなのに、言葉の暴力で出来た小さくて細かい傷からは絶えず透明な血が流れ続けている。
 
  でも、僕は彼女に対して求めるのは一時的な甘えや慰め、現実から目を逸らしてくれることではない。
  冷静に第三者の視点から、ちゃんと話をして欲しいんだ。
  記憶の残骸が再びゾンビとして襲ってこないように。いや、何度甦ってきたとしても、慣れて大丈夫にヘイチャラになるために。
「あはは、それは中学生の又さんがイタ過ぎたんだよ」
「ちゃんと分析してから、すぐに次の作品に取りかからなきゃ」
「良いじゃん、巨人ファンも半分はアンチなんだよ」
  そんな君の言葉に、僕は「何もわかってないくせに」と言うだろう。でも、そのセリフを言わせてくれてありがとう、と思ってる、同時に、半分荷物を背負わしちゃってごめんね、と呟きながら。
 
  だから、僕も彼女に対して、そういう存在でありたいと思う。しかし、僕のこの考えはかなり特殊で、僕の言葉は彼女に届くことなくシャットアウトされる。
「又さんは強い人だから、自分に自信があるから、そんなことが平気で言えるんだよ」
  違うよ、僕だって……。
「いい。もういいから、もうやめて」
  もうちょっとだけ……。
「やめて、自分の意見ばかりゴリ押ししないで」
  そして、僕は言葉を見失い、ただ一人茫然と立ちつくすことなる。
  僕のやれることは最初から何もなく、ただ、そっとしてあげることだけだったのに――地雷踏みの彼氏は、地雷を避けることなく自分が思うように真っ直ぐに歩くことしか出来ない。

 (了)
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