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僕と君と明日のつづき
四畳半ダンディズム
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細川又三良
(ほそかわ・またさぶろう)
1972年愛知県生まれ、男性。

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005.『あれっ、コンドウさんじゃないですか!』
Date: 2001.11.30
 数年前にJR新宿駅南口の前をタバコをふかしながら歩いていたら、前から歩いてきたオッサンに突然、呼び止められた。
「あれっ、コンドウさん!?」
  いきなり大声で声を掛けられて、びっくりしてタバコを路上に落とす。
「やっぱり、コンドウさんじゃないですか!」
 顔を上げて周りを見渡す。僕に声を掛けてきた人は、見た目、五十歳ぐらいの中年男性だった。どう見ても僕に向かって言っている。
「いやー、福岡ではお世話になりました。コンドウさん! 私です、ヤマダ、ヤマダタツオですよ」
  一応、又三良にも名字はあるのだが、コンドウという名字ではない。 尚かつ、ヤマダタツオさんとおっしゃる彼とは話したことも会ったこともない。
「いやー、こんなところでコンドウさんにお会いできるなんて、本当に奇遇ですね、お久しぶりです」
  オッサンは一人で話し続けて僕に口を挟む余裕を与えなかった。 むむむ、このまま勘違いされて妙な事に巻き込まれる前に、強引に彼の話を止めた。
「ちょ、ちょっと待ってください」
  そう言うと、彼はどこか嬉しそうな顔で次の言葉を待っていた。
「……あの、すみません、僕、コンドウじゃないんですけど」
  残念ながら、僕は彼が望むコンドウさんではない。期待を裏切って悪いけれど、まったくの別人に間違われても困る。
  しかし、彼は僕の言葉が伝わらなかったかのように、
「いや、お久しぶりです。良かったら、今から一杯行きますか?」
と止まらない。
  あっけに取られて首を傾けてみるが、彼は僕のそんな態度など見なかったかのように、
「いつものとこに、行きますか!」
と目尻を下げて、お猪口をクイッと傾ける振りをする。酒なんてなくても、もう充分に酔っ払ってんじゃないですか、とそんなセリフがつい口から出そうになる。
「えっと、あの……」
「もちろん、私がおごりますから」
  そうなの、おごってくれるならいいかも……なんて思うわけがない。大体、ヤマダタツオさんは僕よりもずっと年上の人なのだ。そんなオジサンが三十代の僕に敬語を使いペコペコと頭を下げるとは――僕に似たコンドウさんも一体何をしている人なのだろうか。
「いや、だから、私はコンドウさんじゃないんです」
  声を大にして彼にきっぱりという、本当にこのまま彼のペースに乗せられてしまったら、本当に飲みに連れて行きそうな雰囲気だった。
  彼は一瞬、顔を曇らせたが、しかし、
「いやー、コンドウさんでしょう! 参ったな。コンドウさん」
  参るのはこっちだよ、ヤマダさん。
「本当に人違いですよ」
「そんな、嫌だな、コンドウさん冷たいですよ」
  繰り返される勘違いにもう埒が明かないと思って、彼を無視してさっさと通り過ぎようとしたその瞬間、後ろから彼の手が僕の肩を掴んだ。
  太い指の一本一本が強く僕の肩に食い込んでいく。
  得体の知れない恐怖に襲われながら振り返ると、彼は満面に笑みを浮かべていた。そして、サッと僕に右手を差し出した。 瞬間的に僕の右手も動いて、彼とガッチリ握手をしてしまう。
  すると彼はあっさりと、
「それでは、コンドウさん。これで失礼します」
と深々と頭を下げて西口方面へと立ち去っていった。
 
  本当に時々だが、恋人や友人から「又さんにとても似た人を見掛けた」と言われることがある。それは僕の知らない人だったり芸能人だったりするだが、世の中に三人のそっくりさんがいるという仏教の教えのように、似ているは確かにこの世に存在するのだろう。
  しかし、自分の存在を否定されてまで他人にされてしまったのは、これが初めてのことで、オジサンが行ってしまった後でも、どこか不整脈に似た胸のうずきがしばらくの間、止まらなかった。
  コンドウさん……そんなに僕に似ているんだろうか? そこまで自分に似ている人間だと言われると、実際に会ってみたい気もするが、やはり、どこか気持ち悪く、会いたくないなと思ってしまう。

 (了)
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