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author
細川又三良 (ほそかわ・またさぶろう)
1972年愛知県生まれ、男性。
art direction & design
Instant Design Works
photograph
matasaburo EXHIBITION |
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| 004.『たった、一つの返事を待ちわびて』 |
| Date: 2005.10.25 |
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こんな風に引きずるのなら、自分から別れを切り出さなければ良かった、と思った。
どうにも苦しくて、それがその時にできる精一杯の決断だった。別れを告げることで、僕も、そして、君も楽になるんだと思っていた。
でも、それは違っていた。
後悔って、後で悔やむことを言う、そんな当たり前のことを改めて感じるほどに、僕は後悔した。
君を失ったことに。もう二度と逢えなくなったことに――。
今、こうやって振り返ってみると、いくつかの僕の言動が彼女を傷つけてきたのかな、と思う。でも、それを乗り越える度に二人の絆も強くなっていったような気がしていた。人間の身体みたいに、鍛えれば筋肉が付き、スタミナも増し、皮膚の皮が厚くなっていくように。
そう思っていたのは僕だけかもしれない。
だから、最後に、あんなにもあっさりと別れの言葉を口にできたんだろう。僕はどこかでいつものケンカだと思っていた。いつでも取り戻せるだろう、と思っていた。
別れた後もしばらくは平気な顔でいられた。しかし、数日後、あっさりと化けの皮が剥がれた。僕はとても弱い人間だった。それを覆い隠すために今まで彼女に甘えていたのかもしれない。
あの時、僕は本当に彼女の存在が必要だった。
見栄も恥も意地もプライドもなく、彼女にメールをして電話した。
失ったものの大切さに気付いたから、取り戻そうと必死だった。
しかし、別れを望んでいたのは、僕よりも彼女の方だと気付いた時にはもうすでに時は遅かった。実に巧妙なやり取りで彼女は僕に最後の言葉を言わせたのだった。そう感じさせるほど、彼女からの言葉はひどく冷たく、僕を落ち込ませた。
「やり直したって、また、同じ事の繰り返しだと思う」
そうかも知れない、でも、そんなことやり直さなければわからないはずだ。僕を構成する細胞だって毎日入れ替わっている、だから、昨日の僕は今日の僕とは違うはず。お願いだから、もう一度考え直してくれ、と。
彼女の返事はあっさりとしたものだった。
「今まで、どうもありがとう。別れても、私はこれからも又さんの事を好きでいるから」
この言葉に僕の中の何かが壊れてしまった。
過去に別れた女性たちも、何度かこの言葉を口にしていた。その度に僕はひどく傷付いてきたような気がする。人間としての又三良は好き、でも、恋愛対象としては終わった、だから、うるさいことは言わずに円満に別れましょう――とでも言いたいのだろうか。
だったら、僕を嫌ってくれ、と思った。
すべてが手に入らないのなら、全部要らない。
愛情が伴わない好意などに、一体、何の価値があるんだろう。
僕が欲しがったのは絶対的な愛。それを与えられないのならば、想い出から何まですべてをゴミ箱に捨てて欲しい。前にも後ろにも行き場の失った僕の気持ちは再び暴走して、君の心を傷つけて嫌われようと、ひどく辛辣な言葉で感情が先走ったメールを送ってしまう。
そして、感情の赴くままに、すべてを“0”にする。
君との出会いから、すべてを無かったことにしたくて、メールや手紙、写真など一切をこの世から抹殺する。残ったのは胸の中の彼女の記憶と想い。出来るならば、包丁を胸に突き刺してこの想いのまま消し去りたい、と願う――この締め付けられるような痛みと共に。
僕の人生から彼女がいなくなっても、何ら変わることなく淡々と日々が過ぎていった。
一ヶ月後、ふと、彼女の携帯にメールを送ってみる。彼女は印象的な単語をメールアドレスに設定していた。何度かメールしているうちに僕はそれを何となく暗記していたからだった。 当てずっぽうで書いたアドレスはちゃんと届いたらしく、短い一文だったけど、驚くべきことに彼女から返事があった。
僕は小さな願掛けをしていた。
もし、メールが届いて、もし、返事が届いたら、もう一度だけ、彼女に告白をしようと。
たぶん、百パーセント近い確率でこぼれたミルクは元に戻らないことを覚悟していた。でも、やらなければならなかった。気持ちが少しでも残っているのなら、最後まで自分が納得するまで戦いたかった。そうしないと、先に進めないような気がした。
僕は彼女に伝えた。もう飾る言葉は何も要らないから、イエスとノーをハッキリ伝えてくれればいいよ、と。
僕の告白に――彼女は、今度、ちゃんと返事を書きます、と言った。
それから、一週間、二週間が経ち、瞬く間に一ヶ月が過ぎ去った。
彼女からの返事は無かった。その間、サーバーのメンテナンスも無かったし、このサイトだって健在だった。つまりトラブルでメールが不通ってことは無かったはずだった。一ヶ月を過ぎたら、メールを送ろうと決めていた。今まで催促メールを送らなかったのは余計なことでプレッシャーを与えたくなかったからだった。
再び、そのメールアドレスにメールを送る。
彼女からの返事はすぐに返ってきた。
MAILER-DAEMON@idealstamp.net
Remote host said: 550 Unknown user
何の言葉も出てこなかった。
自らを嘲り笑おうと思ったけど、一人でいると上手く笑えなかった。
何だかんだ言って、僕は彼女の言う「これからも又さんのことを好き」を信じていたのかもしれない。その綺麗な言葉に散々、誤魔化されてきたのに――僕はまだ信じていた。人間的にも好意を持ってくれるのなら、僕の恋心を完全に終わらせてくれると期待していた。
しかし、彼女が選んだのはこれ以上、僕とは向き合わず逃げることだった。
たった、一つの返事を待ちわびて。
僕の求めていた返事はイエスでもノーでも、どっちでも良かった。
かつて、愛を囁き合った関係の終わりに何らかの終止符を打ちたかったんだろう――でも、それは間違った認識だった。そう、僕が認めたくなかったのは愛を取り戻せなかった事実よりも、最初からそんなものは無かったという哀しい現実だったに違いない。
(了) |
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