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僕と君と明日のつづき
四畳半ダンディズム
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細川又三良
(ほそかわ・またさぶろう)
1972年愛知県生まれ、男性。

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002.『あの人のことが忘れられない』
Date: 2001.09.20
  お酒が回って、彼女の舌はさらに滑らかになっていく。
  パーティーが始まった頃にはとても静かで無口な人だったのに、今、目の前にいる彼女は全くの別人のように思えた。
  僕と彼女の間には会話は成立していなかった。彼女は、ただ思いつくままにしゃべり続けていたように思う。
 
  僕が大学生だった頃、親友だった彼の中学時代の同級生が開いたホームパーティーに飛び入り参加したことがあった。彼らは中学時代、生徒会に所属していた仲間たちで、当然、僕は昔の想い出を共有する彼らの輪に当然入れず、ずっと一人でお酒を飲んでいた。
  そんな僕の隣に座っていたのが彼女だった。
  話し始めたキッカケは缶ビールのお代わりを取ってもらったことだった。「ありがとう」の後に、一言二言、言葉を交わし、お酒の力も加わって親しく話すようになる。しかし、少し様子がおかしいな、と思った時にはもう手遅れだった。
  彼女は、クイッと日本酒を飲み干すと、さっきから何度もしていた同じ話を繰り返した。
「私に言わせれば、日本のロックはみんなダメ、死んでる、腐ってる」
「それは制作側のオリジナリティがないから、海外の曲をパクってアレンジしてるだけ」
「バンドもロクなのがいない。商業主義に侵されてレコード会社の言いなりになってる」
などなど、彼女はろれつが回らなくなっても、ひたすら日本のミュージックシーンの欠点について自論を展開し続けた。
 
  明け方になりパーティーもお開きになって、親友の彼の車で家まで送ってもらう途中、彼は僕に謝った。
「ごめんな、相手させちゃって、彼女、いつもああやってしつこく人に絡むんだよ」
「お酒を飲む前は、普通に地味な子だと思ったんだけどね」
「そうなんだよ、酒を飲むと人が変わっちゃうみたいでさ、本当は呼びたくないんだけど、昔からの仲間だからそうもいかなくて」
  思い出せば、昔の思い出を共有している仲間たちと会っているのに、どこか場違いで浮いているように見えた。今日の僕のように、そこにいてみんな見えてるはずなのに、どこか存在感の薄かった。
「見たところ、他の人と話してないみたいだったけど、どうして彼女は参加するんだろうね?」
「さあな、淋しいからじゃないの」
  確かに僕も迷惑していたけど、彼の最後の一言を聞いた時、何故だか、彼女に同情してしまった。
  彼は淋しいからじゃない、と一言で切り捨てるけど、嫌われているのを薄々感じながらも集まりに参加するのはそれなりに覚悟がいることじゃないのかと思った。それとも、彼女はそんな空気さえ感じないイタくて鈍感な人なんだろうか――。
 
  あれから十年あまりが経って、ふとした瞬間に彼女のことを思い出す。
  その時に一度しか会ったこと無いし、顔も地味なメガネを掛けていたことぐらいしか思い出せない、当然、恋心と言った甘い感情もまったくなかった。
  それでも、僕は彼女のことを憶えていて、時々、思い出す。
  いや、憶えたくて憶えているわけではなく、思い出したくて思い出しているわけでもない――ただ、忘れられないのだ。
  そう、あの人のことが忘れられない。
  いつの頃か、そんな忘れられない人たちのことを書き残しておこうと思った。
 
  書き終えると、いつも僕の心の中に二つの気持ちが残った。
  一つは、彼、もしくは彼女たちは、今頃何をしているのだろうか、という現在進行形の素朴な疑問と、彼らもまた僕のことを思い出すことはあるのだろうか、と言うことだった。
  思い出すとしたら、僕は彼らの目に一体どんな人間として映ったのだろうか。

 (了)
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