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僕と君と明日のつづき
四畳半ダンディズム
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細川又三良
(ほそかわ・またさぶろう)
1972年愛知県生まれ、男性。

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※収録された小説作品はすべてオリジナルです。エッセイは一部事実を元に構成されたフィクションです。

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[introduction]

  原稿用紙からパソコンへ、活字からフォントへ、紙面からネットへと、文字が載る媒体が急速に入れ替わっていく時代。巷には言葉が溢れ、誰もが文章を綴り、小説という形は、より自由に無軌道に節操なく拡がっていく。
  そんな世界で、僕が物語を紡ぐ意味とは何だろう――と、自らに問いかける。
  アイデアル・スタンプ・モンタージュは、細川又三良の執筆活動の拠点となるウェブサイト。著者の詳しいプロフィールはこちら
――プロローグ。
「ねえ、小説を書くってどういうことなの?」
  プリントアウトされた原稿を捲りながら、彼女が訊いてくる。
  わかりやすく彼女に伝わるように、ゆっくりと言葉を選びながら話す。
「ええっと……小説を書くことは、世の中には目には見えないんだけど、確かに存在する何かがあって、それを自分なりのナイフで切り取り、なるべく誰にでもわかるような形に削って、人に見せる行為だと思うんだ……僕はね」
  彼女はうんうんとうなずいて、わかった風な口ぶりで、
「ふうん、なるほどね」
  と呟いた。
  きっと、彼女は僕の言葉をちゃんと理解していないのだろう。そう、何もわかってないからこそ、突然、僕の小説を読みたいと言い出したんだ。
「いいから、先を読んでみてよ」
  あごの先で原稿を指す。
「そうね、しょせん、小説なんて読まなきゃわかんないしね」
  再び、原稿を捲り、最初のページに視線を落とす彼女。
  ふと、訪れた沈黙にその場に居られなくなって、彼女が小説を読み終えるまでどこかに消えていようと思い立って、彼女の部屋を出た。
  向かう先はコンビニでも公園でもどこでも良かった。コンクリートの階段を降りていくと、上から五段目に一匹のセミがひっくり返っているのが見えた。

  夏もそろそろ終わりに差し掛かっていた。 ガリガリ君の棒を囓りながら部屋に戻ると、彼女はベッドの上でタオルケットに包まれて眠っていた。
  床には脱ぎ捨てられたキャミソール、小さく丸まったピンクの下着、そして、なぜか、ダブルクリップで綴じたはずの原稿が散らばっていた。
  何なんだよ、と呟きながら、床に散乱したA4の普通紙をかき集めた。一枚ずつ、ノンブルを確認しながらページの端を揃えていく。
  ふわあ、と背後から呑気なあくびが聞こえる。ベッドを見ると、上半身を起こした彼女が両手を突き上げるように伸ばしていた。
「――どうだった?」
  転がっていたダブルクリップを拾って、また原稿を綴じる。
「んっ、何だっけ?」
  すっかり、僕の書いた小説のことなんて忘れているみたいだ。テーブルの上に原稿を置いて、ついでに落ちていたキャミソールと下着を手にしてベッドに投げる。
「悪くないと思うよ、でも、なんて言うか、もう一つ足りない、かな」
  振り向いて彼女の顔を見る。
「何が足りない?」
「んっと、サムシング・スペシャルって言えばいいのかな?」
「……何か特別なもの、か」
「うん、そう、それよ、センス・オブ・ワンダー」
  って、人の苦労も知らないで、どこかで適当に聞きかじったようなことを言いやがって、と思うけど――でも、何か特別なもの。それは一体なんだろう。
「それは、あなたしか書けない、何かよ」
  クスクスと笑いながら、彼女は頭からすっぽりとキャミソールを通した。
  僕もベッドに入って、彼女の身体を後ろから抱き締める。すべやかな肩に小鳥がついばむようなキスをして、右手で彼女の二の腕を軽くつまんだ。
「さ、もっと感想を聞かせて貰おうか」
  ねじるように力を入れて、さらなる言葉を求める。
「だって、もし、私がこの子だったら、こんなに簡単にやらせないもん」
「そう?」
「大体、いくら山奥の綺麗な滝でも全裸じゃ泳がないよ。あと、夏服の高校生にも興味ないし」
  服の下に両手を入れて小ぶりな乳房を包み込む。彼女が言葉を発するタイミングを見計らって、親指と人差し指で乳首をつまんで転がす。
「でもさ、誰かに覗かれたりすること想像したことない?」
「ないない、ないよ」
  八月の空――開け放った窓には夏の初めに縁日の露店で買ったビードロの風鈴がぶら下がっていて、風もないのにチリンとどこか淋しげに鳴った。僕は本当に彼女のことを愛していたが、彼女はこの恋はひと夏限定だと割り切っているようだった。
「お風呂上がりとか、カーテン開けっ放しでも出てくることあるじゃん。ほら、向こうの団地からそっと覗いている男の子がいるかもしれないよ」
「えっ……あっ、んく」
  右手を素早く彼女の内ももに忍ばせて、その奥に指先を伸ばす。温かく湿った、とろけるような肉の感触。
「隣に住んでるのは独身のサラリーマンでしょ。毎晩、君の甘ったるい声に眠れない夜を過ごしているのかもね」
「ちょっと、ダメだってば」
「ほら、想像してみなよ。花火大会に誘ってきたバイトの先輩も、きっと、この部屋でこういうことしたかったんじゃない」
「あん」
  目をぎゅっとつぶって彼女はいやいやと激しく首を振った。中指はくちゅくちゅと音を立てて、第二関節まで濡らしていく。彼女は後ろ手で僕のシャツを掴んで引っ張ると、キスをせがむように振り返った。
「いやらしいね、君は――ほら、小説に描いた全裸の少女のこと、否定できないじゃない」
  キスを拒んで、代わりに彼女の耳の側で囁いた。
  原稿の束は、再び、僕の手を離れて冷たいフローリングの床に落ちた。
 
  そして、僕たちは、小説そっちのけでまた愛しあう。
 
■プロフィール
著者である細川又三良の横顔(プロフィール)の紹介。
細川又三良 (ほそかわ・またさぶろう)
1972年 愛知県生まれ
性別:男 / 血液型:A型
星座:ふたご座 / 干支:ねずみ年
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 2001年10月より本ウェブサイト『アイデアル・スタンプ・モンタージュ』を企画・制作・運営。2003年にはWeb年鑑2003制作委員会が主催する『Web年鑑2003』の入選サイトに選ばれる。
  執筆活動に留まらず、写真撮影まで活躍の場に広げ、現在、インターネット上で『インスタント・フォトグラファー又三良写真展』を開催中。
 

HOSOKAWA matasaburo re-presents
アイデアル・スタンプ・モンタージュ [ideal stamp's montage]


URL : http://www.idealstamp.net/ism/
著者 : 細川又三良
装丁 : Instant Design Works
写真 : 『インスタント・フォトグラファー 又三良展』より提供
発行 : 2001年10月30日
改訂 : 2008年2月10日
配信 : idealstamp.net
制作/著作 : 細川又三良
(C)Copyright matasaburo
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